企業には世の中を変えていく使命がある スタバCEOハワード・シュルツの経営哲学 

ハワード・シュルツ氏( Stephen Brashear / Getty Images)

いまや日本の街角でもすっかりお馴染みになったスターバックスコーヒー。本社にあたるスターバックスは、世界80カ国以上、3万以上の店舗を展開する世界最大のコーヒーチェーン店です。

そのCEOに、2018年までその座を務めていた、あの人物が戻ってくるというニュースが流れています。ハワード・シュルツさんです。

「不可能だ」と言われたコーヒーチェーンの世界展開を成功させ、さらに一度は苦況に陥った会社の再生も成し遂げ、アメリカを代表する名経営者と言われてきました。

以前シアトル本社で行われたインタビューで、彼は何度もこの言葉を口にしました。

「私たちはコーヒービジネスを展開しているのではないのです。コーヒーを提供する『ピープルビジネス』を展開しているのです」

めざしたのは「第三の場所(third place)」


1971年創業のスターバックスに、マーケティング責任者としてシュルツさんが入社したのは1982年、29歳のときでした。翌年、イタリアを訪れた彼は、街のあちこちにある小さなエスプレッソバーに気づきます。

カウンターの向こうから気さくな声がかかる。バリスタは優雅にエスプレッソを注ぎ、カップを手渡してくれました。心地いい雰囲気がバーを包んでいました。シュルツさんはこのときに驚くのです。

「ここはただコーヒーを飲んでひと休みするだけの場所ではない。いること自体が素晴らしい体験になる『劇場』だ」

しかし、当時のスターバックスは焙煎したコーヒー豆を売るだけの会社でした。シュルツさんは退社し、自らコーヒー店を立ち上げます。そして翌年、投資家から380万ドルをかき集めてスターバックスを買収したのです。ここから、奇跡の物語は始まりました。

「なぜ、スターバックスはこれほど支持されたのか。何より『自分の場だ』と顧客が感じられること。次に、クオリティの高いコーヒー。それを接客やインテリアなど、あらゆる面で演出して、顧客の期待を超えたからだと考えています」

めざしたのは、単なるコーヒーショップではありませんでした。家庭、職場や学校でもない「第三の場所(third place)」。自分自身を再発見する場でした。

そのために最も重要なものが、心地いい雰囲気と高い品質のコーヒーをつくり出せる人材。シュルツさんが何よりも大事にした、彼がパートナーと呼ぶ従業員たちでした。だからこそ「ピープルビジネス」だったわけです。

その姿勢は、全米の企業を驚かせた福利厚生にも現れていました。すべての従業員に健康保険を適用し、ストックオプションを与えました。その適用範囲を、週20時間以上勤務するパートタイマーにまで広げた企業は、それまで例がありませんでした。
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文=上阪 徹

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