「いくつかの成功しているSaaSを見てきましたが、ワンマンなトップが率いるチームはほとんどない。トップダウンの会社は、トップの人がキャップ(天井)になってしまい、それを超えられないように思います。権限委譲して任せると、予想を超えた業績が生まれてくる。それがうちの強みでもあります」
玉木は、CFOの役割も合わせ、組織を次のように考える。
「1人のスーパーマンが何でもこなすのではなく、ある部分で自分よりも優れてる人がいたら採用することが重要です。本質的な部分を共有できないとチームとしては上手くいきにくいので、透明性の高い議論ができることも大切です。
またCFOの仕事で言うと、事業を支えるのが大前提。よく、攻めの/守りのバックオフィスという言葉を耳にしますが、コーポレートミッションやビジョンの実現をいかに下支えし、そのために何でもやるのがバックオフィスです。
事業をドライブするための手段としてファイナンスが必要なときにはいつでも対応できる準備をしておく。例えば急なM&Aをも想定し、そういう事態にも常に対応できるような状態を作っておくことが重要です」
エンジニアを率いた芹澤はこう述べる。
「僕たちの会社は、特許やコア技術で戦っているわけではありません。キーになるのは利用者の欲しいものを素早く的確に作ること。
例えばエンジニアチームだけでも約130人いますが、全員が集まり、一人の指示によって一つのプロダクトを作ったら当然遅くなるんです。だからチームを細かく分割し、権限、裁量を持ったチームを増やしていくようにしています」
加えて宮田は、「社内政治」について言及した。
「例えば自身のキャリアやポストを狙い、経営者同士で足の引っ張り合いが起きているのでは、チームを成り立たせるのは難しいでしょう。うちでは社内政治を特に嫌い、これが起きそうになったら『マジでやめて』と牽制します」
「なぜかというと、SaaSって一つの製品でお客様を満足させる事業です。プロダクト、ビジネス、コーポレート、それぞれのチームが一体となって価値を提供していくビジネス。トップ同士の仲が悪かったり、腹を割って話せなかったり、まして社内政治が起こっていたら、SaaSの成功確率は極端に下がるでしょう」
自分の弱みや困りごとを包み隠さず共有できる関係性は滲み出るほどで、実際に他社の経営陣と食事に行くと「本当に仲がいいですね」と言われるという。取材時にも冗談を言いながらいじり合う場面もあった。
仲良くも馴れ合いにならない緊張感を保つことで顧客ファーストを実現し続ける。この絶妙なバランスが、SmartHRの経営チームを形成してきたようだ。