「スタートアップ企業って、どこも自社のことを『フラットでオープンな社風』と言うんです。SmartHRからも同様の話を受けましたが、数十名の会社で開放性がなかったら組織としてまずいと思うんですよ(笑)」
CFOの玉木諒
「ただ、SmartHRのそれを信頼できた理由があります。投資家の前田ヒロさんが社員と1on1で社長の評価をヒアリングし、その内容を宮田さん自ら、自分のブログに書いていたんです。
トップである宮田さんからしたらやりづらいことだと思いますが、そうしてフラットでオープンな組織にするということを有言実行していた。ここなら周りと足並みを揃えて進んでいけそうだなと思いました」
一方、採用側として宮田が見ていたのは、カルチャーにマッチするかどうか。
コンサルや外資系銀行出身者などと面接を行うなかで、倉橋と玉木は、高いスキルや統率力がありながらも、決してトップダウンで物事を進めない人物であった。フラットな視点を持ち合わせている点が企業文化に合致すると評価した。
実際、海外投資家には事業戦略以上にカルチャーを重視する人もいる。その点を基準にしたのは「結果的には正解だったのでは」と宮田は振り返る。
2人の入社は、ビジネスを急成長させるうえでも最適なタイミングだった。
前社長の宮田昇始
「SmartHRのアドバイザーである福山太郎さんは、『SaaSはARR(年間経常利益)1億円まではアート。そこから先はサイエンスの世界』と言っています。僕は勘と経験にたよるアートタイプである一方、2人は論理派。入社時期はドンピシャで、倉橋さんはARR1億円を超える直前、玉木さんはシリーズBの資金調達前で信託型のストックオプションを発行した頃でもありました」
2018年1月のシリーズBでは15億円を調達し、毎年作成する社内予算や5カ年事業計画は毎回上方修正。事業は急拡大していった。
強いチーム、4人はこう考える
こうして作られた経営チーム。彼らが考える、SaaS市場を勝ち抜く経営チームのあり方とはどのようなものか。
宮田が意識してきたのは「権限委譲」だ。特に経営陣がそろってからは、実務を手放し、組織のカルチャー作りに専念してきた。その背景には、自身の失敗経験がある。
「実は私、営業がめちゃくちゃ苦手だったんです。お客さんのオフィスに訪問すると手汗が出てきて、エレベーターのボタンを押す手が震えるほど。そんな私が営業チームのリーダーだった時期があるのですが、得意でないのに口を出し、売り上げは伸びなかった。
何か変えようと思って、営業の会議に出るのをやめたらチームの議論が活発になり、売り上げも成長し始めたんです。その領域が得意でない人がリーダーとして存在するのは、組織にとって良くないことだと気づきました」
現在の営業チームを取りまとめる倉橋も同様の意見だ。