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2022.03.31

ANA Xとサイバーエージェントの提携。主役たちが語る「未来データ」の価値

ANA X井上社長(中央)とサイバーエージェント内藤常務を迎え、DX JAPAN植野代表が提携の背景を聞いた。


「未来のデータ」という未活用の宝


予約とは、将来の移動データという価値の高い情報だが、ANA Xにとって、データ活用に関しては手つかずの状態だった。マイル上級会員への訴求力も弱い。サイバーエージェントとの提携によって、「未来のデータ」とマイルという大きな資産を活かしたプラットフォームの構築が実現できる。
 
井上:Peachの時に、海外のLCCのパイオニアEasyJetの人から顧客戦略のさまざまな話を聞いたんです。ウォルマートが広告を、しかも、デジタル広告をやるというのを聞いて驚きまして。これはデータベースを持っているからできる。だから我々でもできるんじゃないかと気づきを得たわけです。

航空会社の強みは、予約データを持っていることです。予約は、「確実性の高い将来の移動データ」なんですよね。いつ誰が、どういうセグメントの方がどこに何時に来るかというのがわかる。そのデータを活用し顧客体験の向上という商いができないかというのを、海外のLCCトップたちとロンドンのパブで話していた。盛り上がりましてね。「それはありだ」って話でその時は終わったんです。

植野:そこから着想を得たわけなんですね。小売のPOSは購買データで、過去情報です。何を買ったから、次も多分また買うんじゃないかと推測するしかない。過去の相関関係からアルゴリズムを作るわけです。一方、エアラインのデータはこれからどこへ行くという未来の行動情報がわかる、これは非常に価値が高い。サイバーエージェントさんも、「未来のデータ」という考え方の商品を扱う、その領域に入るという可能性を今回感じたのではないですか?

植野代表
植野大輔|DX JAPAN 代表。三菱商事入社後、ローソンへ4年間出向。PontaカードなどのDXを推進。ボストンコンサルティンググループを経てファミリーマートへ。ファミペイの垂直立ち上げなどDXを統括・指揮。モルゲンロット執行役員 CSO。

内藤:そうですね。ネットの中だと、「今」探すという検索結果広告の価値が高い。「今欲しい」という人を捕まえるのが、一番価値が高いということはわかっていますが、さらに先の未来の情報みたいなものはどのくらいの価値になるのか、モデルを作ったことはまだありません。ですが今回は、その価値を超えることのできるモデルや、「新しいデジタルの接点」を作ることができるんじゃないかと思っています。例えば、複数存在するデータやアプリを、一つのデータプラットフォームで管理することで、ユーザーに使い勝手の良いアプリを開発したりサービス提供することが今回できるのではないかと思っています。

井上:それは私たちの期待でもあるんです。ANAマイレージクラブ会員という約3700万人の会員の中には、ANAカード会員もいらっしゃって、一人当たりの決済額は日本一のセグメントなんです。ところが、このセグメントにグループとして訴求できているかと言うと、できていない。その辺のノウハウが完璧に落ちている。自社単独で推進する力はないと私は思っている。顧客は何が好きで、どこへ出かけているかというデータを基に、次はここへ行くんじゃないかって予測できるんですが、商品を買っていただくための見せ方がいまいちなんです。

他業種を見ると、実にうまく訴求している。行きたくなる、買いたくなるようになっている。これはうまいなと思うのが結構ありまして、そういう事例をサイバーエージェントさんは持っている。こういうことが好きなセグメントには、こういう出し方がいいというのがお得意なはずなんですね。また、どういう広告主の方を連れてくればいいのか、私たちは理解していない。若い方、シニアの方、富裕層の方、それぞれに合う広告があるはずですよね。顧客の満足につながる見せ方がクリアできれば、すごい世界が生まれるという期待があります。

提携の図
発表された提携の内容。この起点は大きな一歩であり、利用者に価値ある情報を届けるための協業が始まる。(ANA Xプレスリリースより)

植野:今のデジタル広告はユーザー属性や購買、閲覧のような過去データを基に、最適化された広告を当てるわけですが、広告を出稿する企業側の論理で最適化されすぎる懸念もあります。サイバーエージェントさんは、広告におけるデータ活用についてどう考えていますか?

内藤:個人情報保護法という話はもちろんありますが、ユーザーが受け入れる広告を頻繁に出るように価値を与えるアルゴリズムがどんどん進化しています。Googleもそうですが、Facebookとかは、不快な広告や合わない広告をどう出さないか、ユーザーにとって意味のあるなしをダイナミックに振り分けて、何度も長く使ってもらうことのほうが上位の重要な概念としている。そういうことができるアルゴリズム、いい効果が出るモデルを作っていく形になると思います。

マイルというすごく大きな資産があるので、とにかくダイナミックな提案、どう出したらどう動くかというところがすごく大きなテーマになる。先進的な事例になるうえで一つの要素になると思っています。とにかく便利なサービスにできると思う。
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文=中沢弘子 写真=苅部太郎

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