長期の抗生物質使用が、高齢期に認知能力を低下させる可能性

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脳と腸は、双方向的に影響しあうことが指摘されている。「脳腸軸(brain-gut axis)」とも呼ばれるこうした「脳腸相関」に密接に関連しているのが腸内細菌だ。腸内細菌はさらに、うつ症状や不安症、統合失調症などの精神疾患に寄与している可能性もあることが、これまでの研究により明らかになっている。これはつまり、腸と脳が直接の神経接続やホルモン、もしくは代謝産物を通じて、相互にコミュニケーションをとっているということを示唆する。

オープンアクセスの科学誌「プロスワン」に2022年3月23日付けで発表された研究では、中年期に長期にわたって抗生物質を使用すると、腸内細菌叢(共生する微生物の総体)が変化する結果、その後の人生で認知能力が低下する可能性があることを示している。

慢性的な抗生物質使用については、これまでの研究でも、肥満、がん、心疾患などを含む、「慢性炎症」と関連した疾患のリスク上昇との関連性が指摘されていた。

一部の腸内細菌種は、抗生物質治療の完了後に復活するが、それでもやはり腸内細菌コミュニティ全体で見ると変化が生じ、特定の細菌遺伝子に加えられた変更は、抗生物質使用後の数カ月から数年にわたって持続するという。

とはいえ、抗生物質使用と認知能力の関連性を示す証拠は限定的だ。これまでにわかっているのは、腸内細菌叢のバランスが崩れることにより、消化管に住みついている一部の微生物(腸内常在菌)が、認知面での副作用を誘発する場合があることだ。

今回の研究は、抗生物質使用と認知能力との関連性をさらに掘り下げたものであり、「ナースヘルス研究II」データベースに登録されている、米国で働く看護師1万4542人を対象としている。ナースヘルス研究IIは、1989年に開始され、現在も継続している全米規模のコホート研究で、女性の主要慢性疾患のリスク因子を調べている。

参加者は、過去4年間までの抗生物質使用状況を質問されていた(「なし~3年以上」の7レベル)。

抗生物質使用の理由として多かったのは、呼吸器感染症、尿路感染症(UTI)、にきび/酒さ、慢性気管支炎、歯科治療だった。

参加者は、2014年から2018年にかけて、自宅でコンピューターを用いて自己記入形式の心理テストをおこなった(平均年齢は61歳)。

テストは、4つのタスクから構成されている。たとえば、精神運動機能や情報処理速度を測定するタスクでは、画面上でトランプがめくられたときに特定のキーを押す。第2のタスクは覚醒度と視覚的注意力を測定するもので、参加者は赤いカードがめくられたときにキーを押す。

視覚学習と短期記憶の測定に関しては、参加者にトランプの札を見せ、前に見た札を覚えているかを問うテストを設計した。テスト後、参加者のスコアを記録し、各種のパラメータをもとに標準化平均値を算出した。
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翻訳=ガリレオ

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