ビジネス

2022.04.02 11:00

自社の「ごみ」は他社の資源。デンマークの工業都市で50年前から実践してきたこと

人口1万5000人の小さな工業都市、カルンボーの街並み


現在は11のパートナーで、互いに熱や水、蒸気、廃棄素材などを循環させている。たとえばアスナス発電所の余剰熱は、地元の3500軒の住宅を暖めるのに使われ、副産物として出る汚泥は農業用の肥料として販売されている。
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また、別の副産物である石膏はウォールボードのメーカーへと供給される。副産物の石膏で製造業者の需要をほとんど賄うことができるため、石膏の確保のために行われてきた露天掘り(鉱石を採掘する手法)の必要性が減り、環境への負荷も削減されるのだ(※2)。


カルンボー・シンバイオシスの相互循環

地域でパートナーシップを持つことは、互いの資源を共有して再利用することにつながる。自社の「ごみ」を他社が有効活用し、またその会社が出した「ごみ」を別の会社が資源と捉えて活用する……という風に循環のループを閉じることで、カルンボー・シンバイオシスではこれまで、約29億円以上のコストと、63万5000トンのCO2、100GWhのエネルギー、そして8万7000トンのマテリアルを節約してきた。

また、自分の会社が持つ資源だけに依存せず、有事の際には協力しあうことができるので、コミュニティに参加することでレジリエンスのある企業運営が可能になることも利点だ。
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なぜこのような循環が地域で実現できたのか。Tueさんはこう答える。「理由は大きく二つあると思います。まず、カルンボーという地域が長く工業都市として知られていたおかげで、多様な産業がすでにあったこと。もう一つは、企業同士が上下関係なく話ができたことです。デンマークという国の特性かもしれませんが、人と人との関係がとてもフラットなので、協働しやすかったのです。」

循環がつくる人々のウェルビーイング


地域での循環がもたらすメリットは、環境面やコストの面だけではない。

カルンボー市民にとっても、生活に必要なエネルギーを安価で手に入れることができる、クリーンエネルギー関連の雇用が生まれるなどのメリットがあった。2000年頃からはデンマークの製薬会社Novo Nordiskから2億円以上の出資を受けており、その一社の出資だけで、港の開発と2300の新たな雇用創出を行うことができたとTueさんは言う。

また、現在は教育機関の誘致も積極的に行われている。今日まで、252のアカデミックな人材が創出され、地元起業家や大企業の一員としてイノベーションを起こしているという。

一方、地域の人々の生活が化石燃料に依存している中で、循環型の地域への転換を無理に進めようとすると、対立が起こり、転換が遅れる可能性があることもTueさんは指摘する。

「立場の違う企業同士で合意を得ることは、たしかに難しいです。ですが将来のことを考えて、より互いに、そして地域にとってのベストを探します。僕たちは、すべてのSirplus(余り)が必要な場所に供給されている状態を目指したい。」
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文=IDEAS FOR GOOD Editorial Team

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