しかし、欧州の港やマリーナで巨額の富を象徴するスーパーヨットに目を光らせている当局は、資産差し押さえで大きな獲物を捕らえただろうか?答えは「ある程度」だ。欧州各国が差し押さえた巨大ヨットには、現在制裁の対象となっているオリガルヒが所有するとされるものがある。
これは、組織犯罪と汚職報告プロジェクト(OCCRP)などがまとめたロシアン・アセット・トラッカーや、フォーブスなど一部の報道から集めた情報を基にしている。
世界最大級のヨット「クレセント(Crescent)」は、長さ約135メートルで、約6億ドル(約740億円)の価値を持つ。同船には巨大なガラス底のプールやヘリコプター格納庫、2階建てのガラスのアトリウムなどが設置されていると言われている。同船は、ロスネフチとのイーゴリ・セーチン最高経営責任者(CEO)につながっているとされ、現在スペインの地中海岸の都市タラゴナで押さえられている。
ドイツのハンブルクで修理を受けていたところを当局から取り押さえられたスーパーヨットもある。メタロインベストのアリシェル・ウスマノフが所有する「ディルバー」は、室内容積で見ると世界最大のヨットで長さは約156メートルにもなる。同船は2016年の納品時、2019年に完成したクレセントよりも高額だったと考えられている。
最後に、世界最大の帆走ヨットで3本のマストを持つ「SY A」は、イタリア・トリエステで差し押さえられた。所有主は、ユーロケムと石炭企業SUEKのアンドレイ・メルニチェンコだ。
それでも、制裁を受けているロシアのビリオネアが所有するスーパーヨットの中には、欧米各国の当局の手が届かないものもある。チェルシーのオーナーでヨット好きのロマン・アブラモビッチが所有する2隻は、ギリシャ付近の欧州連合(EU)海域を慎重に回避し、先日モルディブやドバイ、トルコで目撃されている。この3国はいずれもロシアの個人に対する制裁を発動しておらず、欧米との身柄引き渡し協定もない。