ビジネス

2022.03.31

日本一のビジネス本翻訳家が紐解く、アマゾンを世界一にした「ジェフ・ベゾスの言葉」

アマゾン・ドット・コムの創業者ジェフ・ベゾス / Getty Images


「そうした意思決定は、ゆっくりと、慎重に下さなくてはならない」

ベゾスは本書でこう明かしています。そして、大切な意思決定に正しい判断を下すことこそが、経営者の役割であるとも。「経営層は何に対して給料をもらっているのだろう? 数少ない、優れた判断をすることに対してだ」「一日に3つでも良質な決定ができたらそれで十分だし、その3つの判断の基準を最高に上げなければならない」。これも至言ですね。

もうひとつ、意思決定に関してのベゾスの特徴は、直感に従っているという点です。彼自身、重要な意思決定は、80歳になってその判断を振り返ったときに、どう思うかを想像するのだと言います。「後悔の数をできるだけ減らしたい」。80歳になったとき、その挑戦を後悔するか、しないか。「後悔最小化のフレームワーク」と呼ぶ方法によって、アマゾンを創業し、米ワシントン・ポストの買収も決めたのです。

こうしたベゾスの考えは、当然、一緒に働く仲間たちにも浸透しています。

「伝道師か、傭兵(ようへい)か」。ベゾスは、人物を評価する際、彼自身の独特の表現を使って判断します。その人が使命をもった伝道者なのか、それとも金目当ての単なる傭兵か。傭兵は、株をすぐに手放しますが、伝道者は自分たちのプロダクトやサービスを愛し、顧客を愛し、偉大なサービスをつくろうと努力する。「金目当ての傭兵はいらない。使命に共感できる人間に来てほしい」と言うゆえんです。

この考えは、アマゾンの人材採用にも色濃く反映されています。アマゾンで採用する優秀な人材の定義には3つのポイントがあります。「尊敬できる人物か」「加入するチームの能力を引き上げてくれる人物か」「その人はどの側面でスーパースターになる可能性があるか」。ベゾス氏自身が培ってきた起業家としての経験、数々の事業の成功と失敗で得た知見が積み重なり、アマゾンの企業文化がつくられています。「信頼、つまり評判は、難しいことを何度も何度も上手にやることによって築かれる」とベゾスは言っています。

徹底した長期思考をもつベゾスですが、時に短期の課題にも対応します。新型コロナウイルスへの対応に関しては、長期的な視点を脇に置き、時間と思考を「すべてコロナ対策に注ぎ、アマゾンがどうしたらその役割をきっちりと果たせるかを考え抜いた」と語っています。危機に自分の考えを変えていける柔軟性も、ベゾスの特徴かもしれません。

ベゾスの言葉や考え方から学べることは、個人的には長期的な視点を常にもち続けること、そして、自分を信じ切る勇気をもつことだと思っています。

その意味では、経営者が日ごろからどのような問題意識をもって事業に臨んでいるかが問われます。果たして、自分はどんな未来を実現したいのか、どのように社会に貢献したいのか。常に考え続けることが大切になります。伝え方や表現は、結局のところ手段にすぎないのです。



「毎日がはじまりの日(Day 1)」

いまでは、多くの人に知られることになった、アマゾンの哲学。常に初心を忘れず、創業時のように物事にあたる姿勢は、アマゾンを象徴する言葉と言えます。しかし、その続きはあまり知られていません。

「Day 2(2日目)には組織が立ち止まる。すると、時代に乗り遅れる。次第に苦しみながら会社が傾く。そして死ぬ」だから、経営はいつも「Day1」でなくてはならない。ベゾスの言葉は、日本の経営者にも通じる、生きた教訓です。
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文=蛯谷 敏

この記事は 「Forbes JAPAN No.091 2022年月3号(2022/1/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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