ビジネス

2022.03.30

非常識から生まれたモノの「ちょっと借り」市場

モノの貸し借りを通して、体験が平等に提供される社会をつくる─。こうしたビジョンを掲げ急成長しているのが、村本理恵子が率いるピーステックラボだ。同社が運営する「アリススタイル」は、個人や企業が家電や日用品等を週間・月間単位で貸し借りできるシェアリングサービス。2018年に開始し21年末にはユーザー数50万人を超えた。男性が美顔器を借りたり、高圧洗浄機を年末だけ借りるといった「モノの試し借り、スポット借り」も目立つ。

村本がアリススタイルの構想を描き始めたのは16年のことだ。当時、エイベックス通信放送で手がけていた動画配信サービス「dTV」に着想を得た。

「モノを買うことに豊かさを求める20世紀型の経済や価値観には限界が見えている。それに対し何ができるだろうと考え、クラウド上のデータを共有する動画配信サービスのように、モノをみんなでシェアすることで『体験の平等』を実現したいという思いが生まれました」

61歳で起業。ビジネス経験豊かな村本だが、決して順風満帆ではなかった。19年初頭には大型資金調達の話が直前で流れ、ベンチャー企業の「死の谷」を味わった。

そして20年秋、転機が訪れた。新型コロナウイルス感染拡大による巣ごもり需要の拡大やSDGsの認知度拡大でシェアリングビジネスに対する企業や社会の理解が一気に高まり、風が吹き始めた。地銀や不動産業界、旅行業界などから提携の話が舞い込み、21年度の年商は約8億円にまで成長した。

22年春からは、毎月定額で最新家電や高級フィットネス機器などを自由に借りたり交換したりできる新サービス「アリスプライム」を始める予定だ。

「可処分所得が上がらなくても、モノをうまく循環させることで暮らしやすさは実現でき、さらに経済も回る。新しい常識をつくることが私の人生における最大のミッション。正しいサーキュレートエコノミーをつくることで、日本に新たな文化を生み出していきたい」


むらもと・りえこ◎1979年、東京大学卒業。時事通信社で世論調査や市場調査分析に従事した後、専修大学教授、ガーラ会長、エイベックス・デジタル取締役などを歴任。エイベックス通信放送ではモバイル動画配信事業「dTV」の立ち上げに参画。2016年にピーステックラボを起業。

文=瀬戸久美子 写真=林 孝典

この記事は 「Forbes JAPAN No.091 2022年月3号(2022/1/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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