米国では成人の20%近く、すなわち約5000万人が精神疾患を発症。約5%は深刻な精神疾患に苦しんでいる。グローバル・ヘルス・データ・エクスチェンジ(The Global Health Data Exchange)の推定によれば、世界で2億5100万人~3億1000万人の人々がうつに苦しんでいる。
メンタルヘルス問題の蔓延についてより良く知るため、著者はティアゴ・レイス・マルケス(Tiago Reis Marques)博士に話を聞いた。博士は、世界屈指の精神医学研究機関であるインペリアル・カレッジ・ロンドンでフェローを務める精神科医であり、キングズ・カレッジ・ロンドン精神医学研究所の講師でもある。マルケス博士は、うつやその他のメンタルヘルス問題は、現代において極めて一般的だが、治療は可能だと語る。
マルケス博士は、精神疾患治療における有望なイノベーションのひとつとして、幻覚剤を補助的に利用した心理治療を挙げる。心理療法プログラムの効果を高める要素として、医療目的で認可を受けた幻覚性向精神薬、具体的にはMDMAやシロシビン、LSDを使用するのだ。
幻覚性向精神薬は現在、おおいに注目を集めている。かつては所持や使用に厳罰が課される違法薬物に指定されていたが、いまや、うつ病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)など、さまざまな問題に対する精神医学的・医学的処置として受け入れられつつある。シロシビンを使った治療は研究段階だが、さまざまなメンタルヘルス問題や依存症への治療効果が示されている。
マルケス博士は、米国に拠点をおくバイオテクノロジー企業、パシシア・セラピューティクス・コーポレーション(Pasithea Therapeutics Corp)のCEOでもある。同社は、精神疾患や神経疾患に対する新しい効果的な治療法の探索と研究に特化している。
パシシアとは、リラクゼーションや瞑想、幻覚といったさまざまな意識変容状態を象徴する、ギリシャ神話の女神(ギリシア語で「パシテア」)を意味する。同社は現在、精神疾患に苦しむ患者のニーズに応えるため、クリニックと家庭におけるケタミン(解離性麻酔薬)静脈注射の普及に向けた取り組みを進めている。
データによると、幻覚剤を利用した治療法の普及からもっとも恩恵を受けるのは、難治性の不安障害、うつ病、PTSDを抱える患者であり、こうした治療法の効果と安全性は実証済みだという。