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2022.03.28

ふるさとを「めぶくまち」に変える。田中仁が続けるフィランソロピー活動

JINS代表取締役の田中仁(左)、二口圭介(中央)、橋本薫(右)

発売中の「Forbes JAPAN」2022年5月号の特集「これからの『お金の使い方』」では、コロナ禍をはじめ大きな社会的役割を果たしたビル&メリンダ・ゲイツ財団、チャン・ザッカーバーグ・イニシアチブをはじめとした、世界および日本の起業家たちが取り組みはじめている「新しいフィランソロピー」の動きを取り上げている。

慈善活動だけでなく、多様な資金提供と活動を駆使して社会的インパクトの実現を目指す「フィランソロピー3.0」と呼ばれている動きだ。この起業家、経営者たちによる新しいフィランソロピーの動きを通して「新しい社会のつくりかた」の進化を見ていく。

田中仁が10年近く続ける「地方活性化」のフィランソロピー活動。群馬県前橋市に、さまざまなカタチでまちに人にいい影響が広がっている。


宿泊客がチェックアウトした後のホテルは、静かな時間が流れるものだ。しかし、群馬県前橋市の白井屋ホテルは様子が違う。現代アートに彩られた館内は観光客や地域住民でにぎわい、人々の談笑する声が、巨大な吹き抜けに響き渡る。宿泊する場所というより、アートを軸にしたコミュニケーションスペースといった趣だ。

「ホテルでもうけるつもりはない。もうけるだけなら、ここまでエネルギーを注いでないですよ」

そう笑うのは、JINS代表取締役の田中仁(写真左)だ。田中は前橋出身。廃業したホテルを再生させたのは、活性化プロジェクトの一環であり、まちづくりのきっかけだった。

「部屋をデザインしてくれたジャスパー(・モリソン)やミケーレ(・デ・ルッキ)、そして地元や東京の友人たちは、僕の活動を面白がって協力してくれた。フィランソロピーって、真面目に考えると疲れちゃうんですよ。僕が続けてこられたのも、共感してくれる仲間が増えていくことが面白かったからでしょうね」

田中がフィランソロピーに可能性を見いだしたきっかけは、2011年EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー世界大会だった。審査項目のひとつは「起業家個人の社会貢献」。田中も震災被災地に寄付などをしていたが、世界の起業家たちの活動はスケールが大きく、その差にがくぜんとした。

「創業以来、会社を大きくして雇用をつくり、納税することが起業家の社会貢献だと考えてきました。しかし、それだけが社会貢献のかたちではないと気づかされた」

ただ、フィランソロピーに関心が高まったものの、取ってつけたような社会貢献は嫌だった。自分らしい活動は何か。財団を立ち上げて始めたのが、起業と地域活性化をかけあわせたコンテスト「群馬イノベーションアワード(GIA)」や起業家育成の「群馬イノベーションスクール(GIS)」だった。田中は幼いころに歩いた前橋の風景をよく覚えている。

「日曜日のアーケードは肩がぶつかるほど人であふれていました。しかし、ひさしぶりに歩いたらひとけがなく、寂れていた。群馬に僕と同世代は1万8000人。僕より商才のある人がおそらく50人はいて、彼らが起業していれば群馬もここまで疲弊していなかった。起業家という生き方を若い人に知らせるべきだと考えました」
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文=村上 敬 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN No.093 2022年月5号(2022/3/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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