今井はプレゼン前から寄付を決めていた。コスメティックブランドのSHIROは北海道砂川市が創業の地。26歳で前身の会社の社長に就任して、素材を生かしたものづくりに取り組んだ。そのかいあって会社は成長。しかし、20年が経過して、ふと気づく。
「(化粧品をつくる)ビーカーから顔を上げてまわりを見ると、公園の遊具は壊れたまま。息子ふたりは東京と北海道でそれぞれ暮らしていますが、東京の学校はコロナ禍ですぐオンライン授業が始まったのに、北海道はインフラが整ってない。私は何のために頑張ってきたのかなと」
社会をよくするには、ブランドを大きくすること以外のやり方があるはず──。そうした問題意識から立ち上げたのが、地域創生の「みんなのすながわプロジェクト」だ。この活動に注力するため、21年7月に社長を退いて会長になった。
今井が山川のインスタグラムを見て神山高専のプロジェクトを知ったのは、その少し前のことだ。親交のある山川から話を聞いて共鳴するものを感じ、その時点で高専づくりへの参画を決めていた。
寺田は当初、SHIROというブランドを知らなかった。資金面で応援してくれるだけで十分にありがたかったが、今井がそれ以上の存在になったのは、神山名産のスダチを送ってからだ。寺田はこう振り返る。
「飲食店の営業自粛で余ったスダチを買って支援者に送っていたのですが、今井さんから『スダチはプロダクトになるかも。開発してみます』とすぐ返事が来た。神山高専が目指す人材像は、“モノをつくる力で、コトを起こす人”。まさに今井さんのような人がロールモデルでした」
人が人を呼ぶ縁の連なり
ふたりをつないだキーパーソンは山川だが、山川も、全寮制国際高校UWC ISAK Japanの小林りんから紹介された人材だった。新しい高専をつくりたいという思いが次の縁を呼びこみ、最終的に寺田と今井を引き合わせたのだ。
今井以外にも、縁の連なりから寄付に踏み切った経営者は多い。この現象を、寺田は「共感の雪だるま」と呼ぶ。
「ビジネスでも、『あそこが出すならうちも』と次々に資金調達できるパターンはあります。ただ、ソーシャルはその現象が強く出る。それは共感の力でしょうね」
では、なぜ経営者たちは共感したのか。
「ビジネスで解決できる社会課題は、もうみんな取り組んでいます。しかし、世の中にはビジネスで届かない課題も多い。そこは本来行政の役割ですが、稼いだお金を行政の『大きなバケツ』にポンと入れるより、それぞれの企業や個人の文脈のなかで社会の役に立つことに絞って使いたいと考えた方が多かったのでは」
傍らで、今井が「行政にぜんぶ渡すよりはね」とうなずく。社会に大きなインパクトを与えるため、自分で責任をもって使いみちを決めて自ら動く──。それがいまのフィランソロピーの潮流のようだ。
寺田親弘◎Sansan代表取締役社長/神山まるごと高専理事長(予定)。1976年生まれ。三井物産を経て、2007年にSansan創業。19年、東証マザーズ上場。21年東証一部へ市場変更。19年6月、神山まるごと高専プロジェクト始動。