スタートアップの評価額も下がり始めている。フィラデルフィア本拠でオープンソースのデータ分析ツールを提供するdbt Labsは、2月に42億ドルの評価額で2億2200万ドルを調達した。同社の評価額は、2021年6月の14億ドルからは大きく拡大したが、今回のラウンドで想定していた62億ドルを下回っている。同社の共同創業者兼CEOのTristan Handyによると、同社は62億ドルでの調達も可能だったが、従業員のストックオプションを保護するために敢えて低い評価額で調達することを選んだという。
投資家らは、資金調達額と評価額が減少傾向にあっても、パニックに陥る必要はなく、これは必要な小休止だと指摘している。Founder CollectiveのパートナーであるEric Paleyは、次のように話す。
「創業者や取締役、従業員が、想定していた評価額から今の水準まで調整するのに時間を要するだろう。テック業界のマルチプルは、過去数年で最高水準に達したわけで、期待値を下げるのは困難だ」
Index Venturesのパートナー、Mark Goldbergは、スタートアップへの投資額が減少している要因の1つとして、ファンドの事情を挙げている。彼によると、昨年は多くのVCが市場のペースに付いていくために投資額を増やしたが、彼らが設定している投資期間や、ファンドの出資者に伝えてある投資額は変わらないため、調整するために投資額を減らしている可能性があるという。
Paleyによると、市場はこの2年間、前のめりになって起業家のストーリーや夢に耳を傾けていたという。今は落ち着き始めているものの、重心がつま先から少し後ろに移動した程度だという。彼は、この穏やかな期間を市場は楽しむべきだと指摘する。
「株式市場は下落しているものの、スタートアップの評価額は、まだ過去のマルチプルと比較すると高い水準にある。過去の水準に近づいているが、まだその域に達していない」
卓越した新興企業は影響を受けない
昨年まで、創業者たちはひっきりなしにファンドから声が掛かり、資金調達に追われていたが、そうした状況を脱するのは良いことだとPaleyとGoldbergは指摘する。Paleyによると、常に資金調達を行うのは非効率的であり、Goldbergは資金調達の圧力がなくなることで、創業者たちは事業の運営に集中できるとしている。
優れたスタートアップであれば、このような状況が続いても問題なく資金調達ができるというのが、3人の共通認識だ。昨年は米国のVCだけでも1280億ドルを調達しており、投資する資金は十分にある。投資判断は2021年の成長ストーリーよりも、ビジネスを取り巻く環境に大きく依存することになるだろう。
「上位5~10%の企業にとっては、昨年から状況は何も変わらないだろう。卓越した企業は、マクロ環境の影響を受けることはない」とGoldbergは語った。