いよいよ日の目をみるタイミングのマレーシア。ツインタワーと並ぶ新たなランドマーク118ビル(中央)を望む。撮影:鈴木健吾
また、マレーシアのスタートアップは大学と連携して研究開発を行っているところが多く、大学のシーズが産業へ生かされる機会も多いという。そこで、日本の大学との共同プロジェクトにも大きなチャンスが見込まれる。
実際に、九州工業大学が東南アジアの学-学、産-学連携のハブ拠点を目指して設立したマレーシア海外教育研究拠点MSSCは2022 年度で10年目を迎え、マレーシアの国立大学であるプトラ大学(UPM)と共同運営し、教育及び研究を推進してきた。
九州工業大学准教授であり、マレーシア拠点MSSCのディレクターを務める安藤義人氏によると「MSSCでは、UPM への短期滞在型学習プログラムや研究プログラム、在マレーシア日本企業への企業インターンシップ、オンラインプログラム、マレーシア人卒業生との同窓会など様々な活動の支援をおこなってきました。
MSSCの設置以前に比べると本学と UPM との共著論文は増加しており、発表される研究論文の分野も広がりました。研究力の指標を示すField Weighted Citation Impact値(1文献あたりの被引用数を世界平均で割った数値、世界基準値1.0)が、UPMとの共同研究では1.46(2018-2020年)であり、高いレベルにあることが示されています」とその成果を語った。
また、マレーシアで大きな産業となっているパームオイル産業に着目した研究も多く行われている。マレーシアはインドネシアに次いで世界第2位のパームオイル生産国であるが、アブラヤシからパームオイルを抽出する際に、同オイルの 3倍量の固形廃棄物と、その10倍程度の廃液が排出されている。この廃液の処理時に発生するバイオガス(メタン)が環境問題の要因の一つになっている。
これらの課題を含めた、環境問題の解決にMSSCは取り組んでいる。安藤氏によると───、
「マレーシアと本学の強い繋がりの一つはFELDA社と一緒に、廃液から発生するバイオガスを収集しエネルギー源として活用することを取り入れた研究を実証したことが発端となっており、現在では多くの工場でこの取り組みからバイオガス発電が行われています。それ以降は、本学でも搾油工場から生み出されるパーム廃液やパーム固形廃棄物の有効利用と地球温暖化ガスの削減に取り組む研究が行われています。
他にも、私が関わっている例では、最近注目されている技術に木材から得られる機能性の高い材料セルロースナノファイバーやセルロースナノ粒子があります。これらは多くの利点を持つカーボンニュートラルな材料として注目を集めていますが、我々の取り組みの一つとして搾油工場から排出される空果房からセルロースナノファイバーを作成しています。その取り組みから現地の研究者がZoepNanoというスタートアップを設立し、国内でセルロースナノファイバーの販売を行っています。
これらの取り組みはマレーシア政府が段階的に使い捨てプラスチックから生分解性プラスチックへ切り替えていくことも後押しをしていると思われます。現在、マレーシア国内でのプラスチック汚染度は大きく、低回収率が課題となっています。
そこで、日本の技術を現地の企業と連携して社会へアウトプットするJST aXis事業(持続可能開発目標達成事業)が2020年に実施されおり、日本の大学の成果である生分解性プラスチックの強化技術を使ってマレーシアでの事業化に向けて取り組んでいます」
日本の技術力とマレーシアの多様性を掛け合わせることによって、地球規模課題の画期的な解決方法をグローバル市場に向けて提示し、共に世界をリードしていける日も近いのかもしれない。