さらに鈴木氏はマレーシア市場の地理的、文化的メリットを示す。
「日本企業がマレーシアで支社を作る場合には、以下の点を意識するとよいでしょう。仮に、フィンテックやゲーム関連企業と想定した場合、アルゴリズムやアプリを創れるエンジニアをパートナーとしてチームを組成し、当地のエコシステム関係者(政府系・民間企業)を通じて潜在顧客の開拓やパートナーとの協業を進めていくと良いと思います。
例えば、ゲーム関連のサービスで中華系を狙う場合は、日本の萌え系のデザインは興味をもたれにくい傾向があるため、クリエイティブも変える必要があるでしょう。そういった際に、東南アジアの中でもマレー系、中華系、インド系の主要民族がバランスよく居住しており一定の消費が見込まれるマレーシア市場に拠点を設けるメリットがあります。
また、中華系が多く、高所得者層が多いシンガポールや、今後ますます中間層が増えてくると期待できるインドネシアへ事業の横展開がしやすいことも、マレーシア拠点のメリットと考えられます。
マレーシアに現地法人のあるトイエイト・ホールディングスは、当地を東南アジアの中心として子供の才能を分析するサービスを展開しており、前澤友作氏から出資を受けています。
他にも、学習アプリのPandaiがY Combinatorより出資を受けるなど、マレーシアから約6.3億人の東南アジア市場に事業を展開するスタートアップに対する連携は、有効な機会拡大と考えられます。マレーシア市場単体でなく、東南アジアを軸にグローバル市場を対象としたエグジットを果たす可能性があるのです」
実際に、日本企業とマレーシア企業のオープンイノベーション事例も見受けられ、以下にその一例を挙げる。
・JCBのSoft Space社へ約5百万ドル(5.5億円)の出資、資本業務提携
・ヤマトホールディングス社のIstoreIsend社への出資
・三菱 UFJ イノベーション・パートナーズのCarsome社への出資
・ドローンファンド、NTT西日本子会社、ACSL社からAerodyne社に対して出資と戦略的協業
・CYBERDYNE会社の現地法人設立。マレーシア従業員社会保障機構の傘下企業とサイニクス治療の展開をインド・インドネシアを視野に入れて展開中
・会社お金のデザインとシルバーレイクグループが合弁会社、GAX MD SDN BHD(ガックス・エムディー合弁会社)設立。現在ではESG投資ができるサービスも有する。
水素活用や脱炭素化が日本とマレーシアを繋ぐキーワードに
気候変動問題への対応として、「2030年までに炭素排出量を45%削減」という目標を掲げているマレーシア政府は、再生可能エネルギーへの転換に注力している。そこで、水素活用や脱炭素化などの取り組みを日系企業と連携しながら進める事例も出てきているため、以下に一例を挙げる。
・三井物産はコングロマリットのUMWグループおよびマレーシア・グリーンテクノロジー・気候変動センターとモビリティー分野での水素エネルギーの事業化に関する覚書を締結
・IHIがペトロナス、国営電力テナガ・ナショナルと連携し、アンモニアを燃料に混ぜて石炭火力発電所からのCO2排出を減らすための調査事業開始を発表
・住友商事と東京ガスはペトロナスと生産から利用までの過程でCO2排出量が実質ゼロとなる「カーボンニュートラルメタン」のサプライチェーン構築に向けた事業可能性調査の開始を発表
・東京電力グループと中部電力とが出資する発電会社であるジェラ社がペトロナスと脱炭素分野での協業に関する覚書を締結