多角的に広がる「ガチ中華」の世界。名店の特徴とは?

インド中華の「チキン・マンチュリアン」はチリソース味


また日本人が経営し、調理もする、台湾インスパイア系ともいうべき店が増えているのも面白い。2021年2月にオープンした白山の「鶯嵝荘Also」は、台湾風のレトロな装飾窓の「鉄窓花」があるしゃれた外観で、客層はほぼ日本人だ。

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「鶯嵝荘Also」の台湾のレトロ建築によくある鉄窓花で飾られている

オーナーや料理人が外国の人たちではないという意味で「ガチ中華」の対象外とする見方もあるかもしれないが、「日本の中の外国(食)文化」という観点から考えると、フランスやイタリアに料理を学んだシェフが帰国してレストランを開くのと変わらない。

海外由来の料理が日本に持ち込まれ、広まる過程でよくあることであり、台湾料理もその対象となっていることは、筆者にとって興味深いのである。

(8)老舗台湾&ディープ屋台料理系
これらの店は前述の「台湾おしゃれ食堂系」が現れる30年も前にすでに東京にあった。戦前からあった中華料理店を除くと、最も早い時期に現れた「ガチ中華」であろう。中国の人たちが多く来日するのは1980年代後半からだが、1979年に渡航の自由化が始まった台湾の人たちは、それ以前から都内に店を出している。

その多くは「台湾屋台(小皿)料理」として看板を掲げていた。店内は現地さながらのローカルな雰囲気で、台湾料理を紹興酒とともに味わい、締めには小碗の担仔麺をいただくという趣向だった。新宿の「台南担仔麺」、新橋の「香味」、荻窪の「瑞鳳」、明治神宮前の「千」、御徒町の「台湾客家料理 新竹」などがその代表的な店だ。

このジャンルで別格ともいえるのが、1955年創業の渋谷の台湾料理店「麗郷」だ。30年以上この店に勤める台湾人女性は「以前の調理人はすべて台湾人だったが、いまは店長と私以外は福建人」と話す。すでにオーナーは3代目となり、高度経済成長からバブルの崩壊、そして今日に至るまでの東京の変遷を見てきた老舗である。

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「麗郷」は台湾出身の女性が始めた店で、レンガ造りの外観が印象的

(9)南洋中華系
筆者は当初から、ディープチャイナの広がりは、特定の国由来の料理だけを指すのではなく、広く中国語圏の人たちが提供するものとしてきた。

19世紀にイギリスが海峡植民地としたシンガポールやマレーシアに移民した中国系の人たちが現地の食材や調味料を使って現地化させたものが「南洋中華系」だ。

この料理に詳しいアジアンフードディレクターの伊能すみ子さんによると「シンガポールを代表するチキンライス(海南鶏飯)は、中国の海南島からの移民がシンガポールで広めたもので、海南島にはその名の料理は存在しない」そうだが、神田の「松記鶏飯」などの都内のシンガポール料理店で食べられる。
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文=中村正人 写真=東京ディープチャイナ研究会

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