多角的に広がる「ガチ中華」の世界。名店の特徴とは?

インド中華の「チキン・マンチュリアン」はチリソース味

いまブームとなっている「ガチ中華」とは、海を渡って日本に来た中国語圏の人たちが経営し、調理している料理のことだ。筆者が主宰する「東京ディープチャイナ研究会」では、「ガチ中華」を「ディープチャイナ」と呼んでいる。

前編では、いま話題となっている「ガチ中華」のブームを5つのジャンルに分けて考察した。この5つに共通しているのは、中国のローカルスタイルがそのまま日本に持ち込まれているという点だ。背景には、日本に在住する中国系の若い世代のニーズがある。

これらの料理は、いわば現代中国料理というべきもので、明治時代以降、多くの日本人が親しんできた広東料理をベースとしている「和風中華」とは別物である。

しかし、いま日本で起きている「ガチ中華」のブームを担っているのは、それらの5つのジャンルだけではない。後編ではさらに5つのジャンルを取り上げ、多角的に広がる「ガチ中華」の現在をお伝えしたい。

「現地化」したオリジナルなメニューも


(6)ローカル家庭料理系
中国ではふつうに見かける個人経営の食堂風の店のことで、たいていは日本の町中華や居酒屋の居抜き物件がそのまま使われている。店内は居酒屋と変わらないのに、雑然とテーブルに置かれた食材や調味料は中国のもので、ふと自分が日本にいることを忘れてしまいそうになる。

新小岩の「尚氏私房菜(しょうししぼうさい)」は、上海近郊出身の夫婦が切り盛りする店で、東京ディープチャイナ研究会の小太刀明子さんは「上海の裏路地の食堂はこんな感じ。家庭料理そのものの味で、旅行で上海に行ってもまず食べられない。愉快過ぎる!」と同店の食レポを書いている。

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「尚氏私房菜」は元居酒屋を居抜き物件として使っている

このようなタイプの店は、新華僑の人たちが1990年代に始めた「家常菜(中国家庭料理)」の店に似ているが、この30年の時間の経過でその多くは様変わりしているはずだった。それなのに、なぜいまもこのような店がぽつぽつと開店しているのは興味深いと言えるし、筆者のような人間は、夫婦の身の上話を聞いているうちに、つい癒されてしまうところがある。

(7)台湾おしゃれ食堂系
癒されるといえば、台湾由来の料理にも同じことが言える。この「台湾おしゃれ食堂系」は、ルーロー飯や豆花などのローカルフードやスイーツを出す台湾資本の食堂、あるいはカフェで、客層は圧倒的に日本の女性である。

コロナ禍以前の2019年には年間200万人という多くの旅行者が訪れた台湾は日本人のお気に入り。台湾グルメも広く親しまれ、これまで旅行先でしか味わえなかった新しい台湾スイーツを出すカフェも次々と出店している。
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文=中村正人 写真=東京ディープチャイナ研究会

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