「人にやさしい」について共感するのは、「RE:PUBLIC」の市川文子。フィンランド・ノキア社で80の国と都市でエスノグラフィーを活用した研究開発に従事した経験を持つ市川は、「このプロジェクトのキーワードは、『ヒューマン』」と解説する。「現在、弊社では行政・企業・教育・市民が連携する地域で、持続可能なエコシステムの構築を目的に研究から実践を行っていますが、ノキア時代の研究や、博報堂時代のイノベーションラボ研究もそうでしたが、いかに人に優しいか、という『ヒューマン』を起点に、市民を巻き込みながらプランニングしていく事が大切だと思います」
「とにかくシンプルに実施していく事」と指南するのは、KESIKI INC.石川俊祐。英国Central Saint Martinを卒業後、Panasonicデザイン社などを経てIDEO Tokyoの立ち上げに参画した、デザイン業界の第一人者である石川は、政府機関や大企業のスタートアップのアドバイザーを務めた経験から、「例えば、マイナンバーカード制度。始動して6年経っていますが、改善点は、まだまだある」と指摘。
「つまり、行政のサービスにおいては、ユーザーとの距離をいかに近づけるかが重要だと考えます。キャッシュレス社会が浸透しつつある令和の現在、行政のサービスも『物』をいかになくしてデザインしていくかが前提かと。そして、精神面では、『謙虚さ』を念頭に置きつつ、進めていくべきだと思います」
デザイン政策浸透の近道は、「耳を傾ける事」と「共創の姿勢」
トークセッション2では、「実践者が語る日本の政策デザイン」がテーマ。デジタル庁、AISの増田睦子がモデレーターとして進行。外資系出版社や大手外資コングロマリットから国内最大規模の医学系学術会広報という多彩なキャリアを持つ増田。
「現職では各国のデザイン思考を利用したイノベーション政策について調査研究を行っています。日本の自治体でのデザイン思考ワークショップのファシリテートや、教育現場である大学でのデザイン思考ワークショップを行っていますが、日本に於けるデザイン思考の普及やイノベーション創発は、スタートしたばかり。海外でのデザイン留学をご経験された特許庁の橋本さんの見解をお聞かせ下さい」
これを受けた特許庁の橋本直樹は、国家公務員として初めて美術大学院(米国パーソンズ美術大学)に留学し、MFA(美術学修士号)を修了した経験を基に、これまでクールジャパン政策や知的財産政策、デザイン経営の推進を行ってきた。
「政策デザインアプローチ浸透を目指す『STUDIO POLICY DESIGN』や『Policy Garage』を立ち上げ、武蔵野美術大学政策デザインラボ協力研究員としての活動も通して、行政組織で、内外からのデザイン手法の実践や普及を考えています。端的に言うなら、特許庁は、官庁の中でも一番民間に近い存在なので、利用される方々の耳を傾ける事。そんなシンプルな事こそ大切だと考えています」
橋本も関わったNPO法人「Policy Garage」のパッションリーダーと呼び声の高い津田広和は、官公庁勤務を経て、気仙沼復興支援や経済産業研究所コンサルティングフェローとしてエビデンスに基づく政策を推進してきた人物。「エビデンスに基づく政策(=EBPM)も行動科学も、行きつく先は『人』。共に学び、共に創り、共に実践し、共に成長する。特許庁で4年やっている政策デザインを、このJAPAN+Dプロジェクトでさらに広げ、民間とも協力して推進していきたいと思います」
一方、霞が関の働き方改革や業務見直し担当として、実務経験の豊富な内閣官房の谷口健二郎は、今回のプロジェクトについて「未来の公務の在り方」と言う。2019年から2年間、世界最先端の美大である英国Royal College of Artに留学し、サービスデザイン専攻を修了した経験を経て、霞が関の働き方改革や業務改革の政策の企画立案を実施。「若手公務員にインタビューして、リアルな声を拾ってきましたが、行政は、ユーザーからまだまだ遠いなというのが率直な思いで。ワークショップやプロトタイピングを構築する等、目に見える形で政策をユーザーにフィードバックするシステム作りが重要だと実感しています」