私たちの研究会では、中国語圏出身の人たちが日本で提供する新しい食のシーンを「ディープチャイナ」と呼んでいるが、メディアではなぜか「ガチ中華」という中華料理のジャンルのひとつとして捉えられているようだ。そのこと自体に特に異論はないので、私たちが「ディープチャイナ」と呼んできた料理に関心が集まるのはうれしいかぎりだ。
「ガチ中華」こと「ディープチャイナ」の世界は、想像している以上に多様化している。
そこで「ガチ中華」の全体像とその広がりを理解するべく、都内に実在するさまざまなタイプの店の名前を具体的に挙げながら、東京ディープチャイナの各シーンをいくつかのグループにジャンル分けしてみようと思う。
「和風中華」とは別物の料理
以下に取り上げるのは、それぞれの飲食店の経営スタイルや味の嗜好とそれを支える客層などから、筆者が独断で名付けて、ジャンル分けしたもので、全部で10種類ある。本稿はその前編で、まず5つのジャンルを紹介したい。
(1)新興ビジュアル系
ここ1、2年で急増しているのが「新興ビジュアル系」だ。今年2月末、東京の大久保にオープンした重慶料理店「撒椒小酒館(サージャオシャオジウグアン)」や池袋西口の海鮮鍋の店「破店 Broken Shop Sweet and Spicy」(2月中旬オープン)などがこれに当たる。
大久保通りでひときわ目立つ重慶料理店「撒椒小酒館」
「撒椒小酒館」の看板メニューは、2010年代に中国でブームになった「烤魚(カオユー)」という白身魚の麻辣スープ煮込みだ。店舗のデザインは、大久保通りを歩くと否が応でも目につく奇抜で斬新なもので、これが「新興ビジュアル系」としたゆえんだ。
中国の若い世代の人気メニュー「烤魚」は四川料理の進化系
同店のオーナーによれば、中国在住の設計士と日本の中国系施工会社が共同で手掛けたもので、中国で「国潮(グオチャオ)」と呼ばれるデザイン様式を採用しているという。
「国潮」は中国の伝統的な意匠にポップカルチャーを融合させてモダン化したもので、2010年代半ばに誕生した。それまで外国ブランドに弱かった中国の人たちが、自国の経済力に自信を持ち、自らのブランドを立ち上げたいという思いとともに生まれたとされ、中国のアパレルやコスメの商品パッケージや若者向けの音楽番組のセットなどによく見られるデザイン様式だ。
アニメ世代が中国伝統文化を採り込んで生まれた「国潮」