串串香はスープを用意し、具材を串に刺すくらいの手間で営業できてしまうので参入しやすく、この数年で供する店は都内では一気に増えた。串串香なら高田馬場の「老四川名小吃 小郡肝串串香(シャオジュンガンツァンツァンシャン)」、麻辣香鍋なら池袋の「寛窄巷子(クアンザイシャンズ)」などが知られる。
(4)フードコート&ライト小吃系
東京・池袋の「友誼食府」などは、本コラムでもこれまで紹介してきたが、その後、これに続く第2、第3の中華フードコートが現れている。友誼食府と同じビルの2階にある雲南料理や湖南料理、福建料理など珍しい中国の地方料理が味わえる「食府書苑(しょくふしょえん)」や、同じく池袋西口にある「沸騰小吃城(ふっとうしょうきつじょう)」などだ。
これらのフードコートでは、中華風お好み焼きの「煎餅果子(ジェンビングーズ)」や、小麦粉の平たい麺に甘辛く酸っぱいソースをかけた「涼皮(リャンピー)」のようなライトな粉モノが人気だ。これらも中国の若い世代にとっては常日頃から親しんできた小吃(軽食)である。
「涼皮」は中国の若い女性に人気の冷やし麺
(5)中華風BBQ&カラオケバー系
これも最近、都内各地にオープンしている業態で、料理のメインは「焼烤(シャオカオ)」という中華風BBQ(串焼き)だ。これは渤海沿岸の町、遼寧省の錦州のものが有名で、この地方の人は夏にビーチ沿いの屋台でビールを何本も並べて海鮮串焼きを食べている。そのスタイルのシティ版といえる。
「焼烤」は海鮮や羊肉、野菜などをニンニクたっぷりのタレで焼く
池袋や新大久保にある「灶門坎(ザオメンカン)」は四川省の成都発の焼烤という触れ込みだが、いまや焼烤は中国全土で食されている。池袋の立教大学に近い中華ミュージックバー「卓尚記(たくしょうき)」は、焼烤を食べながら酒を飲み、カラオケも楽しめるスポットだ。
「卓尚記」は吉林省長春出身の男性が始めたカジュアルなカラオケバー
これまで述べてきた第1から第5のジャンルに共通しているのは、中国のローカルスタイルがそのまま日本に持ち込まれているという点だ。その背景には、日本に在住する中国系の若い世代のニーズがあることは言うまでもない。
これらの料理は、いわば現代中国料理というべきもので、これまで明治時代以降、多くの日本人が親しんできた広東料理をベースとしている「和風中華」とは別物である。
なぜ、このような新たな食のシーンが次々と持ち込まれたかというと、日本ではすでにこのジャンルでの過当競争が始まっていて、中国人オーナーたちが日本初出のオリジナル料理やサービスで差別化を図ろうとしているという事情もある。
とはいえ、いま日本で起きている「ガチ中華」のブームには、それだけではない世界もある。後編ではさらに5つのジャンルを取り上げ、詳しく考察してみたい。
連載:東京ディープチャイナ
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