三浦知良55歳。自然体の挑戦がもたらす、あまりに大きな影響力

カズの鈴鹿入団会見の様子。左は鈴鹿の監督を務める兄の三浦泰年/photo by 鈴鹿ポイントゲッターズ


昨シーズンのJ1リーグ戦出場はわずか1試合、しかも後半アディショナルタイムの1分間だけだった。それでもカズが現役続行を望む限り、横浜FCは単年契約をオファーする。J2に降格した昨シーズンのオフも、両者の関係は変わらなかった。しかし、カズは横浜FCに感謝しつつも“甘え”を断ち切り、少しでも長くピッチに立つ可能性を優先させた。プロとは何かを自問自答した末に導かれた決断だった。
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そして、カズの下へは横浜FCに続いて、J2のFC琉球、J3のY.S.C.C.横浜、JFLの鈴鹿、F.C.大阪、高知ユナイテッド、地域リーグのおこしやす京都、南葛SC、海外のアルビレックス新潟シンガポールと計9クラブからオファーが届いた。

全クラブと交渉の席に着いた末に鈴鹿を、Jリーガーではなくなる道を選んだカズは、決断に至った最大の理由を2学年上の兄、三浦泰年監督の存在に帰結させた。敬意を込めて「ヤスさん」と呼ぶ兄は昨夏から、GM兼任で鈴鹿の指揮を執っていた。

「実は昨シーズン、僕も何試合か見させていただいたんですけど、とてもいいサッカーをしていて、僕自身もそのなかに入ってプレーできるイメージを持てた。そしてやはり、兄貴でもあるんですけど、ヤスさんの存在が大きかった」
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開幕戦フィーバー


迎えた3月13日のJFL開幕戦。ラインメール青森を迎えたホームの四日市市中央陸上競技場の周囲では、鈴鹿のスタッフが何度も緊急案内を告げていた。

「バックスタンドか、もしくはゴール裏へお回りください」

午前11時の開場から1時間もたたないうちに、約1500席が設けられたメインスタンドが埋まった。最終的な観客数は4620人。過去最多だった2019年5月5日のヴィアティン三重との“三重ダービー”の1308人を大幅に塗り替えるクラブ新記録であり、569人だった昨シーズンのホーム開幕戦の実に8倍強に達した。

取材に訪れたメディアの数も42社76人。鈴鹿の広報担当を「これまでは10人来れば、今日は多いねという感じでした」と思わず苦笑させたフィーバーぶり。視察と応援を兼ねて来場していた、JFLの関係者も驚きの声を上げた。

「これは(JFLの)歴史的にも、なかなか見られない状況だぞ」

青森戦で3トップの一角として先発したカズは、ブラジル出身のFWアマラオがFC刈谷でプレーした2009シーズンに樹立した43歳9日のJFL最年長出場記録を、55歳15日へと大幅に更新。試合後にはこんな言葉を残している。

「鈴鹿入りしてからたくさんの方に声をかけられて、練習試合やトレーニングには平日でも何百人というファン・サポーターや地元の方々が応援に来てくれる。今日はどのぐらい入るのかが想像できなかったなかで、子どもからおじいちゃん、おばあちゃんまでが僕の名前を呼んでくれた。大きなモチベーションになりました」

ホームだけでなくアウェイでも、鈴鹿と岡崎の歴代最多観客数を塗り替えた最大の要因はカズ。お客さんに足を運ばせるという意味で、プロの存在感が証明された。

もっとも、カズがもたらした効果は観客動員だけにとどまらない。J2の松本山雅FCで指揮を執った経験を持つ、青森の柴田峡監督は試合後にこう語った。

「JFLとは思えないほど注目度の高い試合をさせていただいた。この経験はウチだけじゃなく、他のチームにも言える。どのチームの選手にとっても張り合いになる」

言葉通りに青森は前半の鈴鹿のシュート数を「0」に封じ込めている。もちろん、鈴鹿のチームメイトも刺激されている。試合はカズがベンチへ下がった後の後半26分、同アディショナルタイムにゴールを決めて2-0で勝利した。

挑戦する姿勢で刺激を与え続けるレジェンド


先制点を決めた24歳のMF三宅海斗は、鹿屋体育大学在学中にドイツに渡ってプレーした経験を持ち、卒業後はJ2の栃木SCやJ3の鹿児島ユナイテッドに所属した。青森戦後にはカズへ敬意を込めながら、その存在が奮い立たせてくれたと明かした。
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文=藤江直人

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