現在、そのレストランのオーナー一家は、かなり“痛い目”に遭っている。その原因は、ロシアのウクライナ侵攻を受け、米政府がロシア産の商品の輸入を禁止したことにある。正当な理由なく攻撃を開始したロシアは、数々の国から経済制裁を科されており、ロシア産の魚介類も制裁対象となっている。
だが、実のところキャビア・ルスを経営する一家は、ウクライナからの移民だ。そして、取り扱うキャビアはすべて、ドイツ産だ。二代目の社長、イルヤ・パンチャニコフは、現在ロシアに制圧されているウクライナ南部の都市、ヘルソンで生まれた。
パンチャニコフは、「米国の人たちは罪悪感を持つことなく、キャビアを食べていい」と語る。それは、世界各国に出回るキャビアにロシア産が占める割合は、1990年代と比べればごくわずかだからだ。「魚にパスポートはない。ただの魚だ」という。
ロシア産は国内向け
ロシア(とイラン)はカスピ海や黒海に生息するベルーガ(オオチョウザメ)を大量に捕獲、その卵を高価な食品として世界的に広めた後、生息数を大幅に減らしてしまった。
個体数が30%減少したことを受け、キャビアのためにベルーガを捕獲することは2000年代前半に禁止された。専門家によると、米国でロシア産のキャビアが提供されていたのは、2008年までだ。
中国・杭州でキャビア生産を手掛けるビル・ホーストによると、ロシアはもう何年も、キャビアを輸出していない。生産したキャビアはすべて、国内で消費されている。さらに、ロシア産のキャビアは大半がホルモンを投与された個体から取られたもので、「欧米での販売は認められていない」という。
米国は2021年、ロシアから12億ドル(約1450億円)相当の水産物を輸入した。だが、そのほとんどはファストフードチェーンで使用されるスケトウダラと、養魚場で餌として使われる小魚だった。