ウクライナ侵攻で機密情報を拡散する「ゴースト」たちの目的

ロシアの国境都市ロストフで撮影された、ウクライナ東部のドンバス地域の国境に向けて移動するロシア軍車両の車列(2月23日)(Photo by Stringer/Anadolu Agency via Getty Images)


政府の意図を汲んで、一般国民などにわかりやすく、機密を拡声したその先にはどのような目的があるのか。バイデン大統領は、確かに早い頃よりロシアが侵攻すると信じて疑わないという発言を繰り返し、それに「ゴースト」が乗っかり、さらに主要メディアも便乗した。

すなわち、いざロシアがウクライナに本格侵攻した際、アメリカを主導にどれだけ強硬で容赦ない報復措置が許容されるのか、またはどれだけ中途半端な対応でも許されるのか、過去の戦争の教訓より単独行動を嫌うアメリカの現政権が同盟友好国を巻き込むうえでの反応と共感のレベルを、早い頃から政治や経済方面で探っていたのだ。

アメリカ政治に限らず、そのダイナミズムを知る人間であればわかるが、そこまで完璧に全てが用意周到、狙い通りにできていないという状態はいつでも存在しうる。また「ゴースト」と言っても、所詮は政府発表の二番煎じではないかと指摘する人間もいる。事実、政府発表よりも早く機密情報を世に出す場合はそれほど多くはない。

しかし、忘れてはならないのが、アメリカ政府は昨年の3月から4月にかけて既にロシア軍の国境沿い増兵と侵攻の可能性を告発しており、当時はウクライナも含め「ホワイトハウスは煽り過ぎ」と眉唾扱いであった。

すなわち、いくら覇権国家のインテリジェンスとはいえ世界を説得するのに1年かかったことを意味し、いまこそ眉唾と思う世論は少ないが、その前段階でアメリカ政府だけではできない、いわば一般民衆も含めた政財界の現場実務への外堀を埋める説得を、「ゴースト」が地道に各分野にて進めていた効果は計り知れない。

ただ「ゴースト」の本質的な意図は単なる拡散にはなく、その情報を聞かせたい人間に聞かせ、その反応を政府がカバーできない領域から取得することにある。

マーケティングで言えば「定性調査」、はたまたターゲットとする消費者に商品情報を握らせ、反応を見ているともいえる。すなわち、「ゴースト」はいつも多くの民衆ではなく、特定個人への伝達を狙っている場合が多いということだ。

賢明な読者ならおわかりかと思うが、「だからアメリカに気をつけよう」ということではなく、彼の国は誰が何と言おうと安全保障条約を結ぶ同盟国である。本当に気をつけなければならないのはロシアや中国の「ゴースト」である。覇権国家を目指す限り、その国はアメリカのように機密情報の扱いを会得し、体系化しなければならない点は変わらない。なので、普段より特別早く得た情報が、自分または自分に近いさらに価値のある関係者の反応を聞き出すためのものであるかもしれないのだ。

連載:米ロビイストが見た世界裏事情
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文=山崎ロイ

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