リーダーとしての木村を支えてきたものは何か。取材中、何度も口にしたのは「信頼」という言葉だった。
昔から曖昧で感覚的なものが苦手だった。中高はイエズス会系の栄光学園。神父から受洗をすすめられて、「神は信じない。形が見えないし、祈りで人生がうまくいくと思えない」と言い放った。
「人から信頼されたければ、揺るぎない基準で判断、行動すべき。そう考えたときに思い浮かんだのが公認会計士という職業でした」
青山監査法人に入所後、8年目にPwCシカゴ事務所に出向。監査するだけでなく、経営者のよき相談相手になっていた会計士の姿を目の当たりにして、「信頼は事実と理屈が大事」との思いを強くした。
考えに微妙な変化があったのは、中央青山監査法人で不祥事が発覚したときだ。
「みんな規律を守って働いていました。ただ、自己満足になって、社会とのギャップができていたことに気づかなかった。信頼の形成には、基準に従うだけではなく、主体的な努力が必要だと学びました」
組織づくりにおいて感覚的なものに意識を向け始めたのはこのころからだ。それとシンクロするように、近年はサステナブル領域など事業でも目に見えづらい領域への関心を強めている。
「数字や会計データはわかりやすくて扱いやすい。ただ、それですべてを測れるところまで人間の知恵は行きついていません。かといって、定性的なところは感覚で判断すればいいわけでもない。わかりづらい世界を、どうやって合理的なものにしていくか。いま挑戦を続けています」
PwC Japanグループは従来ESG支援サービスを提供してきたが、20年8月、組織横断型の専門組織「サステナビリティ・センター・オブ・エクセレナンス」を設立した。
各法人の専門性を結集して、わかりづらい世に切り込み、社会における信頼を構築していく──。木村が近年挑戦してきたことの集大成になりそうだ。
きむら・こういちろう◎公認会計士。早稲田大学政治経済学部卒業後、1986年に青山監査法人へ入所。中央青山監査法人の代表社員、あらた監査法人の代表など一貫して監査畑を歩む。2016年から現職。19年にはPwCアジアパシフィックバイスチェアマンに就任。