独メトロ社へ市場の厳しい評価
一方、エール大学経営大学院のリストでは、3月22日の段階で約30社の外国企業がロシアでの事業を継続している。製薬会社の英アストラゼネカ、仏ソシエテ・ジェネラル銀行、アラブ首長国連邦(UAE)のエミレーツ航空などが含まれる。
その1つで独流通大手のメトロは3月11日付でホームページに声明を掲載。「ロシアによるウクライナの攻撃を非難する」としながらも、「現地にいる1万人の同僚に対しても責任を負っており、多くの人が当社から食料品を購入している」などと運営の継続を伝えている。
同社の年次報告書によれば、「メトロ ロシア」の店舗数は2021年9月期末時点で93店。同期の売上高は約24億ユーロで、グループ全体の約10%を占める。税引き前利益に支払利息や減価償却費を加えてはじき出すEBITDAでは同17%に達しており、ロシアは重要な収益源といえそうだ。
いまのところ、同国での事業を続けるメトロに対する株式市場の評価は厳しい。独フランクフルト証券取引所で取引されている同社の株価は、ウクライナ侵攻の2月24日に約6%下落。その後も軟調な推移を余儀なくされている。
ESG投資から取り残される
「ロシア事業は間違いなく、切った者勝ち」と断言するのはニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジスト。事業の継続は世論の批判を増長し、いわゆるレピュテーションリスクを高めかねないからだ。
世界全体で35兆ドルあまりと急激に資産規模が膨らむESG投資を行う運用担当者らは、人道的な観点から事業面でロシアとかかわりがある企業の株式を投資の対象外にする可能性もある。「年金基金などの機関投資家は強制的に処分するか、売らないとしても買い増しはしないだろう」と井出氏は指摘する。
ロシア政府は事業停止や撤退を決めた外資系企業の資産を差し押さえると脅しをかける。退出すれば、競合する中国企業などにシェアを奪われてしまうかもしれない。だが、短期的な利益の落ち込みなどを懸念してロシアにとどまれば、ESG投資という世界の潮流から取り残されるだけでなく、人材確保などにも今後は支障を来すことも考えられる。
前述の独メトロ株の値下がりが、ロシア事業の収益悪化に対する警戒感の高まりか、それとも事業継続に伴う投資家やロシア以外での消費者離れなどを反映したものかは定かでない。ただ、少なくともロシアでの外資系の会社の事業継続は「中長期的な企業価値の低下を招く」(井出氏)との見方が、マーケットで勢いを増しているのは確かだ。
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