同書は、グッドウィンが最も詳しく調査した4人の米大統領(エーブラハム・リンカーンとセオドア・ルーズベルト、フランクリン・D・ルーズベルト、リンドン・ジョンソン)に関する見識を提示するものだ。
アイデアはそれだけで売れることはなく、それを提唱する擁護者が必要だ。そのためグッドウィンは、先述の4人の大統領がコミュニケーションの技術を磨くことによって歴史に大きな影響を与えたと考えている。
リンカーン「ストーリーテラー」
グッドウィンは、アップルTVプラスのドキュメンタリーシリーズ「リンカーンのジレンマ」のプロデューサーだ。同シリーズでは、リンカーンが高いスキルを持った語り手だったことが紹介されている。これは彼が、さまざまな分野で活動するあらゆる集団とつながりを築くことにより磨いた言葉の能力だ。
「リンカーンは尽きることのないストーリーの数々を通し、聞き手の敬意と注目を集めた」とグッドウィンは述べている。
リンカーンが大統領に立候補すると、スキルの高いコミュニケーションの達人に「楽しませてもらもらいたい」人が田舎から大量に集まった。聞き手を魅了する彼の能力がなし得たことだ。
リンカーンは、ストーリーテリングの基本的な構成要素で、典型的な話術に説得力を持たせる要素の一つが比喩であることに気づいた。彼は1858年に選挙運動で行ったスピーチで、「分断され、内部でもめている家は立てない」と発言した。今では有名になったフレーズだ。
リンカーンは、米国が半分奴隷制度を設け半分は解放している状態を容認できないと主張した。
「合衆国の解体や家の崩壊は望んでいない。しかし、分断が終わることを期待している」(リンカーン)
この「家」とは、当時奴隷問題に関して分裂していたアメリカ合衆国のことを指す。持論の説明のために理解できる比喩を用いたことで、リンカーンは一般大衆の注意を引きつけ、奴隷制度反対派の声を代弁したのだ。