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2022.03.21

戦火のウクライナの食料を担うサプライチェーン企業の苦闘

Getty Images

ロシアによる軍事攻撃で身動きが取れなくなったウクライナの人々を助けるため、決死の覚悟のドライバーたちが破壊された都市に食料を運んでいる。

世界6位の鶏肉輸出企業であるウクライナのMHPは、キエフ、ハリコフ、マリウポリの市民数千人に、毎日330トンもの鶏肉を届けている。同社のドライバーたちは、爆破された橋を迂回し、検問所を通過し、路面の陥没を避けながら、サプライチェーンを維持しようとしている。

MHPの会長のジョン・リッチは、「これは人道的な危機だ。爆撃を受けた地域の人々は、食料を手に入れられなくなっている」と語る。ドライバーの多くは、他の会社が閉鎖された後に同社で働くようになった人々だという。

戦争が始まる前の首都キエフの人口は280万人、ハリコフが140万人、アゾフ海の港町マリウポルが43万だったが、すでに200万人以上のウクライナ人が国外に脱出したとされている。

地下壕に身を潜めている飢えた人々を助けるため、第2次大戦中の「ベルリン空輸」のような航空機を用いた物資の輸送や、人道回廊を用いた輸送ルートも検討されてはいるが、現状の頼みの綱は、トラックを用いた輸送だ。

世界最大級の食料輸出国であるウクライナで、戦争が始まる前、MHPは現地の鶏肉やひまわり油、穀物の半分を輸出していたが、今はそのすべてを母国に提供している。同社はロシアの侵攻で3000エーカーの土地を失ったが、それでも90万エーカー以上を確保しており、そのほとんどがウクライナ西部に位置している。

キエフ郊外にあるMHPの最大の鶏肉貯蔵施設の1つは完全に破壊され、ブルームバーグによると850万ドル(約10億円)相当の冷凍鶏肉が焼失したという。

ウクライナ最大の流通企業


「私たちは、サプライチェーンを維持し、ウクライナ最大の流通企業としての責任を果たそうとしている」とリッチは話した。

今もなおMHPから直接、食料品を購入しているスーパーマーケットは、国の西部と南西部に多いという。北部と東部の店の多くは閉鎖されたか破壊されており、人々は食糧不足に直面している。ロシア軍は西部の地域の爆撃も開始し、状況はさらに厳しさを増している。

ロンドン市場に上場するMHPは昨年、22億ドルの収益と6億ドルの利益を計上していた。同社はウクライナで2万8000人を雇用しており、その家族やサプライチェーンに関わる関係者を加えると、25万人のウクライナ人に対して責任を負っている。MHPは、多くの従業員の家族の出国を支援してきた。

リッチによると現在のMHPのウクライナでの取り組みのすべてが、慈善事業というわけではないという。「事業の一部は政府からの支援で賄っており、スーパーマーケットチェーンからも支払いを受けている。しかし、ロシア軍による爆撃が激しさを増す中で、ビジネスの規模は日に日に縮小している」
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編集=上田裕資

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