世界6位の鶏肉輸出企業であるウクライナのMHPは、キエフ、ハリコフ、マリウポリの市民数千人に、毎日330トンもの鶏肉を届けている。同社のドライバーたちは、爆破された橋を迂回し、検問所を通過し、路面の陥没を避けながら、サプライチェーンを維持しようとしている。
MHPの会長のジョン・リッチは、「これは人道的な危機だ。爆撃を受けた地域の人々は、食料を手に入れられなくなっている」と語る。ドライバーの多くは、他の会社が閉鎖された後に同社で働くようになった人々だという。
戦争が始まる前の首都キエフの人口は280万人、ハリコフが140万人、アゾフ海の港町マリウポルが43万だったが、すでに200万人以上のウクライナ人が国外に脱出したとされている。
地下壕に身を潜めている飢えた人々を助けるため、第2次大戦中の「ベルリン空輸」のような航空機を用いた物資の輸送や、人道回廊を用いた輸送ルートも検討されてはいるが、現状の頼みの綱は、トラックを用いた輸送だ。
世界最大級の食料輸出国であるウクライナで、戦争が始まる前、MHPは現地の鶏肉やひまわり油、穀物の半分を輸出していたが、今はそのすべてを母国に提供している。同社はロシアの侵攻で3000エーカーの土地を失ったが、それでも90万エーカー以上を確保しており、そのほとんどがウクライナ西部に位置している。
キエフ郊外にあるMHPの最大の鶏肉貯蔵施設の1つは完全に破壊され、ブルームバーグによると850万ドル(約10億円)相当の冷凍鶏肉が焼失したという。
ウクライナ最大の流通企業
「私たちは、サプライチェーンを維持し、ウクライナ最大の流通企業としての責任を果たそうとしている」とリッチは話した。
今もなおMHPから直接、食料品を購入しているスーパーマーケットは、国の西部と南西部に多いという。北部と東部の店の多くは閉鎖されたか破壊されており、人々は食糧不足に直面している。ロシア軍は西部の地域の爆撃も開始し、状況はさらに厳しさを増している。
ロンドン市場に上場するMHPは昨年、22億ドルの収益と6億ドルの利益を計上していた。同社はウクライナで2万8000人を雇用しており、その家族やサプライチェーンに関わる関係者を加えると、25万人のウクライナ人に対して責任を負っている。MHPは、多くの従業員の家族の出国を支援してきた。
リッチによると現在のMHPのウクライナでの取り組みのすべてが、慈善事業というわけではないという。「事業の一部は政府からの支援で賄っており、スーパーマーケットチェーンからも支払いを受けている。しかし、ロシア軍による爆撃が激しさを増す中で、ビジネスの規模は日に日に縮小している」