トヨタやソニーなど事業投資をして成功を続けている企業もある中で、多くの経営者陣は、内部留保を溜め込んでいます。
特に年齢の高い経営陣と話すと、退職時のことばかりに気が向いてしまっていて、企業のフリー・キャッシュフローの使用用途に関しての思慮が少ないように感じます。若い人たちがアイデアを出したりしても、リスクを回避しようと途中で話が止まってしまい、新しい改革が起きないということも問題です。
こうした課題を解消するために必要なのは、「新株予約権(ストック・オプション)」導入の拡大です。日本ではこの制度の活用が非常に少ないと感じます。
ストック・オプションがあれば、それを発行する企業は当然、株価を上げるよう努力をします。自社の流動資産を何に使い、事業成長をさせるかといった部分に目が配れるようになるでしょう。
例えば、ゼネラルモーターズでは、経営陣へのストック・オプションだけでなく一般社員にもプロフィット・シェアリングを採用しています。直近の企業決算が良かった時には、社員1人当たり1万ドル、つまり120万円程度の、プロフィット・シェアリングによる還元がありました。自社の株価を上げようとするインセンティブが社員一人一人に根付いているのがわかります。
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リスクをとり、事業を成長させることで、自分自身も報われるという仕組みが成り立っているのです。
投資家は、その企業が5年前にいくらのキャッシュを持ち、5年間どういった事業投資に回したのかをみます。これによって将来の成長度合いを予測するのです。
もちろん、過去数年間、キャッシュをため込んでいる企業への投資には消極的になってしまいます。
中長期での成長を
── シュローダー 日本株式運用副責任者 荒井卓
再編だけで大きな変化が起こることは期待できないと思っています。私たちが話をする海外投資家からの反応を見ると失望感が漂っています。
そもそも新たな市場の枠組みや指数を作ることが、市場の投資魅力を高めるわけではありません。現に2014年から始まったJPX400が、すでに海外投資家から注目されなくなってしまったという経験があります。
とはいえ、「環境整備」という意味では、今回の東証再編は正しい方向に動いているのではないかと見ています。
流通株式比率を35%以上にすることや、親子上場に関しても、子会社には半分以上独立社外取締役を置くように求めるなど基準を厳しく設定しました。企業変革が起きていくための土台はできたと思います。
土台ができた上で企業に求められるのは、中長期で利益を出すこと。岸田政権は「新しい資本主義」による富の分配を掲げていますが、そもそも稼がなければ分配するものも生まれません。