迎え撃つのは全員女性、「ガンパウダー・ミルクシェイク」はどんな味?


かなりのシネフィル(映画通)らしく、古今東西のアクション映画に精通しており、この作品も、セルジオ・レオーネ、黒澤明、アルフレッド・ヒッチコックなどの作品にインスパイアされたとパプシャド監督は公言している。

劇中には前述のガラケーやカセットテープレコーダーなども登場し、時代設定は現代ではなく、ひと昔前かと思われるが、いわゆるノスタルジックな雰囲気はない。あくまで鮮やかなポップな映像で、物語が綴られてゆく。

物語の舞台も、ファームという組織が牛耳る犯罪都市という設定で、激しい流血シーンは頻出するものの、最初からリアルな感じは排除されており、架空の街のファンタジーストーリーのようにも思える。

また組織が放った刺客を迎え撃つのは、前述の図書館の司書も含めて全員が女性で、それぞれ胸のすくアクションを展開している。特に主人公のサムを演じるカレン・ギランの180センチメートルの長身と卓抜した身体能力を生かしたバトルシーンは見応えがある。

「それぞれのアクションシーンは、ロケ場所も全体のストーリーテリングの一部にしたいと思っていた。物語とキャラクターの心理的な流れを反映するよう、シーンごとに色と光とファイトスタイルを変えたいと考えたんだ」

監督のナヴォット・パプシャドはこう語るが、なかでも超スローモーションで撮影されたダイナーでの銃撃戦は、まるで絵巻物を見るようにカメラが移動していき、この作品のアクションシーンの白眉ともなっている。

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アクションシーンのバックに流れる音楽も場面を盛り上げている。ジャニス・ジョプリンの「心のかけら」やボブ・ディランの曲をカバーしたアニマルズの「イッツ・オール・オーバー・ナウ、ベイビー・ブルー」など、1980年生まれの監督にしては懐かしい曲が使われており、場面展開にマッチした内容の歌詞とともに巧みな効果をあげている。

ストーリーにひねりがない、人物描写が物足りないなどのネガティブな見方もあるが、とにかくアクションムービーとしてはとことん楽しめる。火薬を混ぜたミルクシェイクがどんな味になるのかは知るところではないが、きっとこの映画「ガンパウダー・ミルクシェイク」のような味わいなのではないかと思っている。

連載:シネマ未来鏡
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文=稲垣伸寿

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