第三回は、長年にわたり審査委員としてグッドデザイン賞と伴走してきた安次富隆と齋藤精一が語り合う。応募作品には時代と社会の様相が色濃く映し出される。1957年にグッドデザイン賞が誕生してから、デザインはどう変化してきたのか。そして、どこへ向かうのか。
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応募対象は、製品・建築・アプリケーション・コンテンツ・サービス・システムなど、形のあるもの、無いものを問わず、あらゆる“デザイン”されたもの。2022年度の応募受付期間は、4月1日(金)から5月25日(水)13:00まで。※受付終了
グッドデザイン賞とその評価の変遷
安次富隆(以下、安次富):1957年当時のGマークは、製品の質を高めるための認証制度でした。だから、ほとんど「物」軸の話で、評価ポイントも使いやすいとか、壊れにくいとか、わかりやすかった。その後、デザインの定義が正しく認識されるようになり、いまでは政治家も自分たちの政策のことをデザインと言ったりする。その意味では、グッドデザイン賞の評価ポイントは、さまざまなフィールドのデザインに共通して使えるものに変わってきた。人類学的なことや哲学的、社会学的なこと、いろんなフィールドにまたがって評価するようになったのは、大きな変化です。
齋藤精一(以下、齋藤):どういう素材で、どんなプロセスで、どんなニーズもしくは社会課題に対してこれが投げ込まれたのか、を見るようになった。美しさというのは、プロセスやつくられていく過程、つくっている企業自体も取り組みのなかに入っていないといけないし、デザインは美しい取り組みのなかでつくられるのがベストだと思っています。
デザインが担う課題、フォーカス・イシュー
安次富:デザインは、もう「物」や「こと」という軸では審査できない。だから、社会が抱えるさまざまな課題に対して、デザインがどのような解決策をもち得るのか。デザインの可能性、役割や意義について読み解いて、「フォーカス・イシュー」としてまとめ、発信している。
齋藤:今後のデザイン、物をつくる人間はこっちの方向に向かうべきなんじゃないかという指針を見せるときに、点ではなく面的に解析するのがフォーカス・イシュー。社会とデザインがどうリンクしているかを見る一個のレンズとしてつくられている。僕はそこに意義があると思う。デザイン業界全体として、プロセスも物のデザインも全部ミックスされた状態だと、それがどう社会に対してインパクトを残していけるのか知ることが難しい。そこにフォーカス・イシューの役割があるのかな、と。
2021年度の応募作品の傾向
安次富:2021年度のテーマとして、齋藤さんと考えたのが「希求と交動」。コロナ禍で世界中の人々が強制的に行動を制限され、声高な欲求や要求ができなくなった。そんななかで、希求という、こいねがう気持ち。それはかすかな声や、声にならないものかもしれないけれど、いまはそこにも耳を傾ける時代じゃないだろうか。交動というのは齋藤さんの発明ですが、すごくいい言葉。希求をとらえるだけじゃデザインできない。思いを交ぜていって、動くことが大事だと考えたわけです。
齋藤:社会全体が向かうべきポイントを決めて、自分たちにできるアクションを起こそうというのが交動だと思っています。そこまでの道のりを設計するのではなくて、いまから歩き始めようということ。これまでの希求って、社会全体での成長戦略とか何か漠としたものだったと思うけど、いまの時代は小さな声も聞くようになった。
今回のファイナリスト(グッドデザイン大賞候補に選ばれた5作品)や金賞を取った作品も小さな声をちゃんと聞いてアクションを起こしている。希求に対して、交動を起こしている方々がいるというのは、大きなメッセージ。
想像の先をいく応募作品の数々
安次富:ゴミ袋メーカーのミヤゲンがつくった感染防止用ガウンには驚きました。防護服の上から着る使い捨てプラスチックガウンです。コロナで医療現場が大変なことになって、防護服の上からゴミ袋を着ているのを見て、自分たちに何かできるんじゃないかと急きょガウンを開発、商品化したわけです。ゴミ袋メーカーが医療用備品をつくるって普通ありえないけど、いろいろな条件を乗り越えて達成した。そして迅速さ。何かアイデアがあって商品にして、社会実装する。それがあっという間できたことも驚異的です。
Tシャツを着るようにかぶるだけ、背面の特殊加工によりワンタッチ脱衣、感染リスクの高い前面に触れずに廃棄可能で、感染リスクを極限まで低減した高機能ガウン。
齋藤:僕が気になったのは、自分の家のお風呂を公衆浴場にした熊本の神水公衆浴場。熊本の災害があって、そのときに思うことがあり、自宅を建て替える際に家に公衆浴場をつくった。役所の認証とか、近隣の方々の協力とか、大変なプロセスを経て実現させてしまった。これってすごくマイクロニーズだと思うんです。誰かに委ねるのではなく、自分たちでやるというところにとても興味を引かれました。
1階銭湯、2階住居のシンプルな構成だが、銭湯は家のお風呂でもあり、番台は玄関。家族と地域の日常が重なり合い、小さくても地域の備えとなる、住宅の新しいプロトタイプである。
安次富:マイクロニーズって、いいキーワード。すごくピュアなデザインですよね。もうけようっていう発想じゃない。地域のために、コミュニティを自分がつくろうという発想が素晴らしい。
グッドデザイン賞の今後に期待すること
齋藤:社会に大小さまざまなニーズがあるのに対し、誰かがやってくれるのを待つのではなく、物をつくる人、つくらない人、全員がプロセスに参加するような取り組み、デザインが増えてくるだろうと思っています。
安次富:大賞審査会で5人のファイナリストが集まったときに、神水公衆浴場の方がOriHimeをうちの番台に置きたい、と言っていたんです。すごくいいなあ、と思って。デザインって単体では存在しなくて、多様なデザインが混然一体となって存在している。だから、他者のデザインを見ることが重要になってくると思います。交ざり合うことがきっと起こるでしょう。お互いが響き合うことで何か新しいものが出てくるのではないでしょうか。
日本デザイン振興会
https://www.g-mark.org/
齋藤精一◎パノラマティクス主宰。クリエイティブディレクター、テクニカルディレクター。2006年ライゾマティクス(現アブストラクトエンジン)設立。社内アーキテクチャー部門「パノラマティクス」を率い、行政や企業などの企画、実装アドバイスも数多く行う。2020年ドバイ万博 日本館クリエイティブ・アドバイザー。2025年大阪・関西万博People’s Living Labクリエイター。2018-2021年度グッドデザイン賞審査副委員長。
安次富隆◎ザートデザイン取締役社長。プロダクトデザイナー。ソニーのデザインセンターを経て、1991年にザートデザインを設立。2008年より多摩美術大学生産デザイン学科プロダクトデザイン教授。情報機器や家電製品などのエレクトロニクス商品のデザイン開発、地場産業開発、デザイン教育などの総合的なデザインアプローチを行っている。2020-2021年度グッドデザイン賞審査委員長。
グッドデザイン賞とは?
グッドデザイン賞は、1957年から続く日本を代表する世界的なデザイン賞として、毎年国内外の企業や団体、デザイナーなどが多数応募し、これまでに多くの優れたデザインが受賞してきた。2021年度は、前年度より1,000件以上も応募が増加して過去最多の5,835件にのぼり、受賞もこれまでで最も多い1,608件となった。応募対象は、製品・建築・アプリケーション・コンテンツ・サービス・システムなど、形のあるもの、無いものを問わず、あらゆる“デザイン”されたもの。
2022年度の応募受付期間は、4月1日(金)から5月25日(水)13:00まで。
>>GOOD DESIGN AWARD 2022 ご応募受付中<<
※受付終了
応募対象:商品・建築・アプリケーション・ソフトウェア・コンテンツ・プロジェクト・サービス・システムなど。⽇本国内外、⼀般⽤/業務⽤は問わない。
応募条件:2022年10⽉7⽇(金)に受賞発表が可能なこと。2023年3⽉31⽇(⾦)までに購入または利⽤が可能なこと。
応募資格:応募対象の事業主体者、およびデザイン事業者。
応募費用:審査費、出展費など段階に応じた費⽤が発⽣する。
応募⽅法:グッドデザイン賞ウェブサイト(https://www.g-mark.org)の応募専⽤ページで、5⽉25⽇(⽔)13時までに登録。
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