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2022.03.17 12:30

メルセデス・ベンツがファッションと手を組む理由


一時期は40カ国で50にのぼるプラットフォームにスポンサーシップを提供していた。東京でも、「メルセデス・ベンツ・ファッションウィーク東京」を2011年から2016年にかけて開いた。これも記憶に強く残っている人がいるのでは。

別項にあるように、ルイヴィトンのメンズアーティスティックディレクターだった故バージル・アブローとも(コンセプトカー)の プロジェクトを実現した。

「トレンドを先駆けるデザイン、イノベーションの分野で開拓的な存在感、それに現代的なラグジュアリー性、これらがメルセデス・ベンツのDNAにある」

当時のメルセデス・ベンツは上記のように、ファッションウィークの後援の意義を説明していた。かつて異業種とのコラボレーションといえば、主たる目的は、ブランドの個性を印象づけることだった。いまは、今回のヘロン・プレストンのように、プロダクトに社会的意義をもたせるクリエイターと組むことで、トレンドに即したメッセージ性を強く打ち出しているのだ。

他車では、アウディがステラ・マカートニーと、ボルボが3.1フィリップ・リムと組むなどして、たとえば、動物愛護団体や環境保護団体から攻撃されている車内の本革の採用を、一部車種からではあるものの、取りやめることをアピール。自動車界とファッション界が、素材を介して結びついているのは、なかなかおもしろい。

プレストンのコレクションは、メルセデス・ベンツ車に使用されているアップサイクル素材(廃棄繊維を原材料にしながら付加価値を与えた素材)やエアバッグを使う。ウェアがまるごとエアバッグでは出来ているのではないようであるが、少なくとも自動車から廃棄される素材にインスパイアされた先進的なメンズおよびウイメンズウェア、という。


“環境に配慮する”というコンセプトの下、回収されたエアバッグをリユースしたコレクション。メルセデス・ベンツと、デザイナーのヘロン・プレストンは「この企画はユニークで、互いのブランドの歴史に残ると確信しています」とコメントしている。

エアバッグを用いたのは、記念の意味もある。2021年は、メルセデス・ベンツ車がエアバッグをW126と呼ばれるSクラスに採用してから40周年、さらにさかのぼってエアバッグの特許取得50周年にあたる。ペロン氏が手がけたウェアは、衝突の際に展開して、乗員を守るエアバッグのイメージを活かしている。展開中あるいはしぼんでいくときのエアバッグのイメージを活かしつつ、バルキーな雰囲気が強調されている。

「私たちは135年の歴史において、つねに顧客を理解し、顧客から求められたり、望まれたりするものを提供してきました。今日はサステナビリティこそが重要で、2025年にはすべてのプロダクトのアーキテクチャーをピュアEVに対応するものとする私たちの方針を決定づけているのも、サステナブルな企業であることを求めている顧客の声なのです」

「常にマーケットのニーズと 味をさぐっているのがラグジュアリーブランド」とフェッツァーは語る。それが重要なプレイヤーであり続けるためのカギだ。

Text by Fumio Ogawa

この記事は 「Forbes JAPAN No.090 2022年2月号(2021/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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