ファッションがトップを走り、クルマはそれを追いかける。かつてそう語ってくれたのは、英ジャガー・ランドローバーでチーフクリエイティブオフィサーを務めるジェリー・マガバーンだった。昨今は、自動車メーカーもクルマをつくって売ればいいだけではない。環境や社会問題に意識的なファッションインダストリーのクリエイターなどとともに“発言”や“主張”をする時代になっている。
メルセデス・ベンツも例外でない。自動車界の巨人と言われているものの、他業種とのコラボレーションには熱心に取り組んでいる。たとえば、音楽、映画、スポーツ。メルセデス・ベンツのロゴを観る機会は意外に多い。そしてファッション。
本社が今回選んだのは、米国のヘロン・プレストンだ。この名を聞けば、2016年にニューヨーク市衛生局の作業服をリサイクルした大ヒット「DSNY」シリーズをすぐに思い出す人もいるのでは。アーティストでありクリエイティブディレクターでありDJでもある、とまさにトレンドのトップを駆けるような才気煥発ぶりを発揮しているのがプレストン。
ファッションの分野では、ストリートウェアのリブランディングで名を馳せ、最近は「リデザイン・プロジェクト」で、リサイクル素材による服づくりにも力を入れている。「ゼロウェイスト」(廃棄ゼロ)と、SDGsが声高に唱えられるいまの風潮にも合う、コンセプチュアルなプロダクトをプレストンは手がけているのだ。
プレストンがメルセデス・ベンツと組んでつくり上げたのは、メルセデス車のエアバッグを使ったリミテッドコレクション。エアバッグがコスチュームになるなんて、着想の面白さに感心する。
「創造的なクリエイターとのコラボレーションは、潜在的な顧客の共感をよぶために重要です。私たちのブランドと共通の価値観をもつクリエイターと組み、例えば、ラグジュリアスでありながらサステナブルなブランドバリューを訴求したいと考えています。クルマというプロダクト以外の手段でもって、私たちの現在の価値観をマーケットに伝えたいと考えています」
そう語るのは、メルセデス・ベンツ本社でマーケティングとコミュニケーションを担当するバイスプレジデントのベッティナ・フェッツァー氏。本誌の質問に回答してくれた。
Bettina Fetzer
メルセデス・ベンツAG・コミュニケーション マーケティング担当バイス・プレジデント。1980年生まれ。2004年入社。メルセデス・ベンツ、スマートのPRを担当。2018年からマーケティング担当バイス・プレジデント。2021年より現職。
これまでにもメルセデス・ベンツはさまざまな分野でコラボレーションを実施してきた。例えばファッションでは、1995年から豪州メルボルンとシドニーで「メルセデス・ベンツ・ファッションウィーク」と後援を行ったのを皮切りに、2001年からはニューヨークでと、世界各地で展開。