連載「INNOVATION ARCHITECTS」では、早稲田大学ビジネススクールの牧兼充 准教授が、エコシステムを形成する関係者へのインタビューを通じてその課題と可能性を探る。
今回は、日本のベンチャー投資業界で黎明期から活躍してきた「Sozo Ventures」が振り返る「日本のベンチャー投資業界」の過去、現在、未来。同社は、Twitter(ツイッター)やSquare(スクエア、現ブロック)、Palantir Technologies(パランティア・テクノロジーズ)といった日米のスタートアップに出資する一方で、スタートアップと大企業間の協業や提携を実現してきた。
同社共同創業者兼マネージング・ダイレクターのPhil Wickham(フィル・ウィックハム)と、同社マネージング・ダイレクターの松田弘貴が「スタートアップ・エコシステムの成長段階」について語った。
牧 兼充(以下、牧):日本のベンチャー・キャピタル業界はシリコンバレーと比べてもまだ未熟ですが、そのシリコンバレーでさえ、米投資会社アメリカン・リサーチ&ディベロップメント(ARD)から始まって起業家たちが「力」をもてるようになるまでに何十年もかかった訳ですね。その意味では、日本のスタートアップ・エコシステムは“80年代のシリコンバレー”と比較的似た状況のように思えます。
フィル・ウィックハム(以下、ウィックハム):その質問には、Sozo Venturesの成り立ちについてお話することで答えたいと思います。巡り合わせもあったと思いますが、興味深いのは、Sozo Venturesの誕生と、日本でベンチャー投資に対する関心が高まった時期がほぼ同じだという点です。つまり、事業会社のベンチャー投資への興味が強まった時期なのです。
人によっては、日本の金融機関がゴールドマン・サックスのようなグローバルな投資銀行との競争に放り込まれたように、企業が初めて真の国際競争にさらされるようになっただけ、と言うかもしれませんが。
それでも一つ言えるのは、起業家というのはスタートアップに適した環境でしか伸びないということです。彼らが市場を創り、自社の製品やサービスに消費者を惹きつけなくてはなりません。その意味では、Sozo Venturesの場合、共同創業者兼マネージング・ダイレクターの中村幸一郎が中心となりツイッターやパランティア・テクノロジーズに出資したこと、それと「ファンド・ワン」の組成などを通じて、日本企業に本当のベンチャー・キャピタルのあり方を広めたことは大きいと思います。
もちろん、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)ありきのSaaSモデルが一般化した世の中でなければ、Sozo Venturesが今よりも規模の小さな投資会社だった可能性はあるでしょう。とはいえ、JAFCO在籍時代の世の中でも良い結果を出していましたし、当時のソフトウェア技術はお世辞にも高いとは言えませんでした。当時は、銀行のソースコードに新たなソフトウェアを統合するのが今の1000倍は大変でしたから。