ビジネス

2022.03.17

瀕死のペットショップチェーンを再生。米PEファンドの「華麗なる賭け」

PetSmart

セオリーに反する投資手法と、リスクを計算し尽くした経営戦略──。時代に取り残された小売店を“劇薬”で救った辣腕投資家の哲学とは。


近年、プライベート・エクイティ(PE)ファンドの存在感が高まっている。伸び悩んでいる、または潜在性が高い企業に出資し、経営も支援するこれらの投資会社にとって、デジタル化やeコマースで成長の余地がある伝統企業や、経営に難があるテクノロジー企業は“金のなる木”だ。ここでは、小売りチェーンをeコマースで再生させた例を紹介したい。

2017年暮れ、米PEファンド「BCパートナーズ」のレイモンド・スバイダー会長(59)はプレッシャーを感じていた。出資先の一つで、CEO代行を務めるペット用品チェーン「PetSmart(ペットスマート)」の経営が傾いていたのだ。同社のテクノロジーは時代遅れで、運用コストも膨らみ続けていた。

スバイダーはペットスマートのCEOに着任したとき、全社的に採用を凍結したため、業務を割高な請負業者に依存せざるをえなくなっていると最高情報責任者(CIO)から聞かされた。スバイダーは、その場で凍結を解除。CIOに35人の採用を認めた。

「敏捷かつ柔軟でいる必要があります。従業員を厳格な規則でしばると、それを守ろうとするがゆえに本末転倒なことになりかねません」

BCパートナーズは14年、1650店舗を展開するペットスマートを87億ドルのレバレッジド・バイアウト(LBO)で買収。その結果、ペットスマートはLBOで60億ドルの負債を抱えることに。ペット用品の購入がネットへ加速度的に移行するなか、ペットスマートは破綻に向けてまっしぐらに進んでいた。

こうした場合、容赦なくコストを削って現金を確保し、借入先に返済するのがセオリーだろう。ところがスバイダーは危険な賭けに出る。ペットスマートの信用契約に抜け穴を見つけ、収益の上がっていないペット用品販売サイト「Chewy(チューイ)」を買収するため、さらなる借り入れに踏み切ったのだ。

スバイダーは、チューイ創業者のライアン・コーエンがことごとく財務目標を達成していることを知っていた。収益が低迷しているとはいえ、チューイは売り上げがコストを上回っており、しかも、同社はペット用品の分野でアマゾンの先を走っていた。

ペットスマートがチューイを30億ドルで買収すると、社債は暴落し、何件もの訴訟を起こされた。だがコロナ禍によるペット・ブームもあって、ペットスマートも21年1月にはLBOによる債務の借り換えにこぎつけた。スバイダーに出資した人々も、300億ドルもの利益を手にすることになった。

「どんなビジネスでも、世界は予想できない形で日々変わっていくのだから、断固たる態度ですぐに適応できるようにしておく必要があります」



レイモンド・スバイダー◎米PEファンド「BCパートナーズ」のパートナー。ペットスマート前CEO。仏高等専門大学校「グランゼコール」の一つで電気工学の修士号、シカゴ大学にて経営学修士号(MBA)を取得。レバレッジド・バイアウト(LBO)のスペシャリストとして知られる。ペットの保健医療が「正当に評価されていない」と注目している。

文=アントワーヌ・ガラ 写真=ギャビー・ジョーンズ 編集=フォーブス ジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.088 2021年12月号(2021/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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