プーチン氏は今回、「ウクライナの非ナチ化・非武装化・中立化」という言葉も使っている。吉崎氏によれば、これはスターリンが第2次大戦後に、ドイツ占領政策として使った「3D(非ナチ化、非軍事化、民主化)」を真似た発言だという。同氏は「非ナチ化といった表現には、昔を知るロシアの古い世代が共感を覚えます。ウクライナでの戦争は、ロシアに正義があるとアピールしたいのでしょう」と説明する。
プーチン氏が介入の論理や正義にこだわったため、ウクライナ侵攻がロシアの思い通りに運んでいないとの見方もできる。吉崎氏は「ロシアは航空優勢を取り切れていないかもしれませんが、それでもキエフに対する全面的なミサイル攻撃や空爆は仕掛けていません。できる限り、軍事施設への攻撃に絞った『きれいな戦争』をしたかったのでしょう。キエフがロシア発祥の地だという思いもあったかもしれません」と話す。
ただ、プーチン大統領は徐々に、こうした「心のブレーキ」を外しつつある。プーチン氏に「自分は、コソボ空爆の時のNATOと同じことをしているだけだ」という自己正義の論理があるとすれば、沸騰する「ロシア・プーチンは悪だ」という国際世論は耐えがたいものがあるだろう。プーチン氏は11日、ショイグ国防相に対し、ウクライナ侵攻に外国人志願兵が参加できる措置を取るよう指示した。攻撃側が守備側の6倍の兵力が必要とされる市街戦に入る決意を固めたのかもしれない。米軍は東京大空襲の際、戦争の局面が予測できなくなるとして、皇居や国会議事堂、大本営などを攻撃対象から外した。ロシアが今回、ウクライナの大統領府なども攻撃対象に含めるようであれば、それはロシアに余裕がなくなってきていることの証左でもある。
吉崎氏は「プーチンのルサンチマンを考えれば、ウクライナ指導部の交代やウクライナ軍の非武装化、ウクライナの非同盟化を果たすまで、戦争を続ける決意を固めているかもしれません」と語る。そして、プーチン氏の恨みは、ウクライナよりもNATOに対してより深いものがある。「プーチン氏は絶対にNATOに軍事介入させたくありません。そのための切り札が核使用の脅しなのです」
プーチン氏は今、自分の姿を、コソボ空爆当時のクリントン米大統領に重ね合わせている可能性がある。でも、実際は、人道の罪で起訴されたミロシェビッチ・ユーゴスラビア大統領と同じ道を歩むのかもしれない。
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