動機はNATOへの積年の恨み? 「心のブレーキ」を外しつつあるプーチン

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ロシアがウクライナに全面侵攻してから3週間近くが過ぎた。ロシアのプーチン大統領は12日、フランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相と共に電話協議を行った。独仏両首脳が即時停戦を強く迫ったのに対し、プーチン大統領は戦争をやめる考えを示さなかったという。戦闘は、軍事施設だけを狙った精密爆撃という段階を超え、民間施設を含む無差別攻撃に移っている。米国のトーマスグリーンフィールド国連大使は10日、英BBC放送の番組で、ロシアの行為が戦争犯罪にあたるという考えを示した。一部にはプーチン大統領の精神状態に懸念を抱く声も上がっている。防衛省防衛研究所の吉崎知典特別研究官はプーチン大統領の言動について「戦術の誤算はあったでしょうが、発言には一貫性があります。狂っているわけではありません」と語る。「プーチン氏の心の奥底にあるものは、NATO(北大西洋条約機構)に対するルサンチマン(恨み)です」とし、原点の一つとして1999年のコソボ空爆を挙げる。

吉崎氏はその理由に、プーチン氏がしきりに唱える「ウクライナへの人道介入」という発言を挙げる。プーチン氏は2月24日、ウクライナでの「大量虐殺」からロシア市民などを保護するために「特別軍事作戦」を命じたと明らかにした。ウクライナ侵攻にあたり、ロシアは市民を安全に避難させる「人道回廊」の設置も提案した。吉崎氏によれば、ロシアのこうした行動は、NATOがコソボ空爆で取った動きと同じだという。NATOは当時、コソボ紛争に介入してユーゴスラビア(当時)の軍事施設などを攻撃していたが、セルビア系住民による虐殺行為などへの「人道介入」を行うとして、首都ベオグラードなどの民間施設も空爆するようになった。同年5月にはベオグラードの中国大使館を誤爆する事件も起きた。「人道回廊」もコソボ紛争でも使われた言葉だという。吉崎氏は「プーチン氏は、NATOが人道介入を理由にコソボで好き勝手なことをしたと考えています」と語る。ロシアと中国はコソボの独立を認めず、国連加入も拒んでいる。

そして、コソボ空爆後の作戦には、ポーランド、チェコ、ハンガリーという旧ワルシャワ条約機構加盟国の軍隊がNATO新規加盟国として参加した。そして2003年のイラク戦争後には、ウクライナやジョージアなど旧ソ連構成国が多国籍軍として参加した。日本政府の元高官も「1989年にベルリンの壁が崩壊したとき、プーチンは東ドイツ領だったドレスデンにいた。プーチンは30年以上もの間、ソ連帝国が崩れていく様子を目の当たりにしてきた。その姿にがまんできなかったのだろう」と語る。
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文=牧野愛博

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