ホストとゲスト 「関係価値」とラグジュアリー

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具体的なプレゼンテーション内容はここでは省きますが、ゲストを一方的にもてなすのではなく、「お客様もホストになる」というコンセプトのもと、ゲストに「もてなす喜び」を味わってもらうという視点に何よりはっとさせられました。

それってレストランを使った「接待」のことじゃないの? というツッコミも入りそうですが、従来型の接待よりもさらに深く踏み込んでいるのがポイントです。「ホストとなるゲスト」に事前に徹底的なヒアリングを行い、本番では「ホストとなるゲスト」にもある程度の仕事をしてもらうなど、「ホストとなるゲスト」にはとことんホストに徹してもらうのです。

高いお金を払いながら苦労して誰かのために奉仕する、というのは理不尽に見えますが、実はそうではなく、本当に喜ばせたい人をもてなすために尽力するということは、何にも勝る喜びなのだという指摘に、忘れかけていた人間性の一面に気づかされた思いがしました。

ゲストとホストの新しい関係


「ホストによってもてなされるゲスト」は、次の機会には立場を入れ替えて「ホストとなるゲスト」となり、そのように相互にもてなし合うことで絆を強めていく、あるいはコミュニティを強化していく。そこにもまた「人と人との対等な関係」によって生まれる新しいラグジュアリーが宿る可能性が見えます。

思えば、英語のホストhostの語源には、guestの意味もあるのでした。立場を相互に入れ替えていける関係性そのものに意味や喜びがあるというのは、普遍的な人間性に根ざす感覚なのかもしれません。


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「これがシグニチャーだ、黙って食え」みたいな店が権威ある店として崇められているカルチャーもあることは認めます。メニューは店主お任せで、次に何が出てくるかわからないのがいい、というレストラン体験もまた高い価値をもつことも知っています。そうした権威のありがたみを享受する喜びは、それはそれとして、これからも失われるものではないでしょう。

ただ、あらゆる場面で「上」「下」構造がなくなっていく時代の流れのなかで、客側もまたサービスのプロセスに能動的な立場で参加したいという思いをもったとしても、不思議はありません。

店を自分で開くほどでもないけれど、プロの力を借りて「ホスト」になりきり、誰か大切な人をもてなしたい。消費者が創造力を発揮して誰かを喜ばせたいという欲求にこたえるサービスは、一つの大きな可能性を秘めると思うのですが、安西さんはどのようにお考えになるでしょうか。
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文=中野香織(前半)、安西洋之(後半)

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