前回の本欄では、JAXAのエンジニアにしてソニーの宇宙戦略プロデュ―サーである村木祐介さんに話を伺い、宇宙開発に「意味」を見出そうとする哲学者ならではの視点、「スフィリズム(宇宙視点)」を紹介しました。
地表から離れ、広く高いところから人間社会や地球を見ることで、閉鎖的なグローバル資本主義に代わる新しい社会の創造を促す考え方が誕生するのではないかという希望がそこにあります。
もてなされるよりも、もてなすほうが…
実は、村木さんは、安西さんがリーダーシップをとるLetters From Nowhereによる「新しいラグジュアリーをつくる」講座の受講生のひとりでした。宇宙エンジニアがなぜラグジュアリー講座を? と思われる読者も少なくないと想像しますが、納得の理由があります。
村木さんは、テクノロジーが進歩すればするほど「人間らしい」心や右脳的な感性が重要になっていくと見通す立場から、「非合理的な精神的価値、感性的価値をマネタイズするにはどうしたらよいのか?」ということを学びたくて受講したのです。
この「新しいラグジュアリーをつくる」講座には、人文学的に宇宙を語る村木さんばかりでなく、独自の感覚で新しい文化とビジネスを創造することに関心の高いビジネスパーソンが多数参加していました。講師と受講生がほぼ対等な立場で議論を重ねた成果から生まれ得た新鮮な視点がほかにもいくつかあり、そのなかのひとつをここでご紹介したいと思います。
それは、「もてなされるよりも、もてなすほうが、よりラグジュアリーな感動を味わえる」という視点です。
ラグジュアリーなレストラン体験というと、完璧に環境が整えられた店舗において、店側が提供する洗練された技とサービスをゲストとしてあますところなく享受すること、という受動的な体験に連想が及びがちなのですが、その前提を覆す視点です。
講座では2~3名のグループに分かれてワークをおこなったのですが、この視点を提供してくれたのが、村木祐介さん(裏千家茶道を嗜む) と資生堂の鈴木佐枝子さん、アイ・コーポレーション(西村靴下商店)の菊地愛さんという3名グループでした。
ちなみにワークのテーマは、「イギリス、イタリアですし店を開く / 日本でイタリア料理またはイギリス料理の店を開く」。ある国の固有な文化を、別の文化に「新しいラグジュアリー」として移す際に意識すべきことを学ぶのが隠れた趣旨です。