パン生地をこねる動作で、乳がんの自己触診を啓蒙。レバノンでの取り組み

The Bread Exam - Case study -より

女性の12人に1人が罹患すると言われている乳がん。しかし早期発見さえすれば、96%から98%が治癒できるとも言われている。鍵となるのは早期発見であり、そのためには月に1度の自己触診が重要となる。

中東の国レバノンでは、その文化的伝統から、女性が自らの胸について語ることはタブーとされていて、乳がんの自己触診はなかなか広まらない実情があった。正しい自己触診の方法を、実際の女性の胸を映して解説する動画をSNSなどで流すことは難しく、そもそも当の女性たちが、自分たちの身体についてオープンに語り合うことにさえ、居心地の悪さを感じる状況にあった。

そうしたことから、レバノンで乳がんの自己触診を実行している女性は、わずか10人に1人に過ぎなかった。

スーパーマーケットと協力して動画制作


レバノン乳がん協会は、自国の女性たちが、居心地の悪さを感じずに自己触診の仕方を学び、お互いに語り合える方法を模索した。調査を通して見えてきたのは、「キッチン廻り」の話題としてならば、可能なのではないかという結論だった。

そこで、この地域でポピュラーなスーパーマーケットチェーンである「SPINNEYS」と協力して、パンを焼くレシピ動画という形を取りながら、実際は乳がんの自己触診の仕方が学べる動画をつくり、配信した。

レシピ動画に登場するのは、レバノンでも著名な料理研究家で、産婦人科医の丁寧な指導のもと、パン生地を捏ねる動作で乳がんの自己触診の方法を伝えるのだ。


McCann Paris - The Bread Exam - Case study -より

その結果、4人のうち3人が「この動画をシェアすることは居心地が悪くない」と答え、86%の人が「パンを焼く動画が乳がん自己触診を彷彿させる」と解答して、大きな成果を得たという。

このレシピ動画「The Bread Exam」は、ピンクリボン運動で世界的に乳がん啓蒙の月とされる10月に配信された。そして、世界の広告界やマーケティング界で飛びぬけて大きな影響力を持つカンヌライオンズ2020~2021のPR部門でグランプリも受賞した。
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文=佐藤達郎

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