「パン、焼いた?」というハッシュタグで広がる
実はこの動画では、胸を見せることも乳がんに言及することもなく、レバノン乳がん協会について語られることもない。しかし、巧みな映像の構成で、前述のようにパンを捏ねる動作を乳がんの自己触診へと結びつけている。
動画には「#Khabazte(パン、焼いた?)」というハッシュタグも付けられ、SNS上では「パン、焼いた?」は、「自己触診、やっていますか?」という意味合いとして伝わっていったのだ。
また、SPINNEYSブランドで発売されている小麦粉のパッケージにもQRコードが印刷され、スマートフォンでこの動画を視聴できるようにした。さらに同スーパーでパンを買った時の包み紙にも動画と同様の内容がプリントアウトされ、市場や店舗で実演されたりもした。
さらに同キャンペーンは、各地域の有名人(インフルエンサー)を活用して、中東とヨーロッパ、具体的にはヨルダン、トルコ、ドイツ、イギリスなどへも広がっていったという。
最終的に、この動画は世界の1億1200万人に届き、300以上のメディアで取り上げられた。またレバノンの大統領からも、賞賛の辞が述べられた。
地域の文化的伝統を無視するのではなく、それらを大切にする人たちの気持ちまでも充分に汲み取りつつ、アイディアで局面を打開する。まさに「広告的機知」の見本とも言うべき、素晴らしいキャンペーンだと言えるだろう。
連載:先進事例に学ぶ広告コミュニケーションのいま
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