連載「INNOVATION ARCHITECTS」では、早稲田大学ビジネススクールの牧兼充 准教授が、エコシステムを形成する関係者へのインタビューを通じてその課題と可能性を探る。
初回は、日本のベンチャー投資業界で黎明期から活躍してきた「Sozo Ventures」が振り返る「日本のベンチャー投資業界」の過去、現在、未来。同社は、Twitter(ツイッター)やSquare(スクエア、現ブロック)、Palantir Technologies(パランティア・テクノロジーズ)といった米国のスタートアップに出資する一方で、スタートアップと大企業間の協業や提携を実現してきた。
今回は、Sozo Ventures共同創業者兼マネージング・ダイレクターのPhil Wickham(フィル・ウィックハム)が、「投資家と起業家間の理想的な関係」について考えを明かした。
牧 兼充(以下、牧):シリコンバレーに拠点を置くベンチャー・キャピタルとして、Sozo Venturesのビジネスモデルは独創的です。Sozo Venturesが生まれる前の日本では、多くの日本の事業会社は、CVCを含めて情報やネットワークを得る目的で戦略的投資をすることが多かったと思います。
その点、Sozo Venturesはシリコンバレーのスタートアップと、日本の企業の間に建設的な協力関係を築くことに成功しました。まず、このアイデアはどのように生まれたのでしょうか。そして、なぜ他社が模倣するのが難しいのでしょうか?
フィル・ウィックハム(以下、ウィックハム):まず、他社が模倣できない理由からお話ししましょう。他社がマネできないのは、最初からそのように設計されていないからです。
多くのベンチャー・キャピタルのメンバーは、「狩猟採集民」のように集められてきた人たちの集合体です。そして、オフィスなどを共有していますが、基本的にはそれぞれが考える投資事業に対して責任を持ち、行動しています。それはそれでよいのですが、私はベンチャー・キャピタルの事業としては非効率的だと考えています。
Sozo Venturesのアイデアが生まれた背景には、2つの出来事がありました。1つ目は、1995〜96年頃、当時、私が所属していたJAFCO(以下、ジャフコ)でのことでした。私がボストンで過ごした初期の頃と比べて、投資契約を獲得するための競争が次第に厳しくなり始めたのです。
そこで、起業家の心を掴むには、資本と人脈といったリソースをどのように生かし、どのような製品やサービスで力になれるか、考えるようになりました。当時はインターネットが生まれる前でした。いまでこそ銀行もアプリを開発して預金者が気軽に使えるようにしていますが、当時は銀行や大企業が新しいテクノロジーを導入するのは決して容易ではなかったのです。