インターネットが私たちの生活を変えたように、暗号資産と、その基盤技術の台頭で世界は再び変わろうとしている。ビットコイン生みの親で正体不明の“サトシ・ナカモト”と交信した最初の人物、「Blockstream(ブロックストリーム)」創業者のアダム・バックに、新しいテクノロジーとの付き合い方について聞いた。
──ビットコイン誕生から10余年。誕生の瞬間を知る一人としてどう思うか?
当時、ビットコインや暗号資産をめぐる環境は法的に不確かだった。一部の会社はリスクを取っていたが、我々は慎重に規制を見極めながら会社を拡大してきた。伝統的な金融業界も「クレイジーなインターネットマネー」と揶揄していたが、次第に基盤技術のブロックチェーンに関心をもつようになり、今ではビットコインも投資対象や金融商品と見なしている。
──ビットコインに「真の価値がない」という銀行家の発言が話題になった。
「金の価値とは?」という問いに似ている。テクノロジーは進化するものだ。私が思うに、「金」は人類が発見した最も優れた“代替可能な金融テクノロジー”だった。所有でき、希少性と耐久性が高く、品質を証明しやすい。ビットコインは金以外で初めて、社会から優れた金融テクノロジーとして認知されたものではないか。一般的に、アナログよりもデジタルのほうが汎用的で性能が高い。しかも金のような希少金属の場合、宝飾品や産業用製品で使われるなど、金融以外の用途が多い。その点、ビットコインは用途が明確だ。
──新しいテクノロジーの台頭で、消費者と規制当局との関係はどう変わる?
そもそも現在の規制や当局があるのは、20世紀初頭に横行した非倫理的な行為を取り締まるためだ。既存の規制に、ブロックチェーンが可能にする公監査やスマートコントラクト(自動化された契約)の機能を組み合わせれば、今まで以上に消費者を保護できるようになる。
──テクノロジーの進化に合う新しい規制当局が必要という意見に対しては?
不要だと思う。社会としてはまず消費者を保護すべき。もちろん、規制の過不足やタイミング、厳密さはイノベーションを阻害しかねない。とはいえ、消費者の保護は当たり前。テクノロジーは柔軟性が高いので、既存の規制当局と協調しながら消費者を守ることは十分に可能だ。