上がらない日本人の年収。なぜ給与は下がるのか?


まずは配当である。昨今の企業は、2000年時の5倍も配当金を払っている。18兆円の増加だ。雇用者総数は約6000万人なので、一人当たり30万円の報酬に相当する。α君がぼやく。「僕が入社してからは、世のエクセレント・カンパニーは、うべかりし僕らの給料増加分を株主に回してきた。大学で学んだ市場原理主義と米国型ガバナンス理論がもたらした成果なんでしょうか」。

次に企業の現預金額である。2000年の130兆円強が、21年の3月には320兆円と3倍近い金額になっている。会社が利益の多くを株主に還元し、残ったお金はためこみ、現預金だけでGDPの半年分に相当する額に積みあがっている。なのに社員の給料は上がるどころか下がってきた。

その結果、日本人の平均賃金は、G7の最低水準で低迷している。2015年には韓国に抜かれた。こんな状況で、α君やβさんにやる気を出せ、というほうが不条理だろう。

似たようなことは役員報酬にもいえる。メディアは年収1億円超えの役員が多い会社うんぬんと大騒ぎするが、日本企業の役員報酬は、欧米企業はもちろんのこと、いまやアジアの大企業より低い。国内でも人気スポーツ選手やタレントよりはるかに低い。

要は役職員一同、安月給で働いてきた20年である。消費が振るうはずがない。消費が低調なら供給側の競争も低くなる。技術革新も生まれない。報酬の高い他国で開発された製品や技術の模倣をしておけばよいからだ。企業内イノベーションも起業もお題目になる。よって経済は成長しない。

景気回復から経済成長へのカギは人材だ。人材たる役職員のやる気を引き出そうではないか。その動機付けは報酬アップだと思う。

だらだらと金融緩和を続け、借金だらけの財政出動を増やしても国はよくはならない。解答は別のところにある。

富は存在する。その配分の「公正さ」が主張されるが、それ以前に、今の日本は役職員への報酬という配分の水準自体が低すぎる。


川村雄介◎一般社団法人グローカル政策研究所代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。東京大学工学部アドバイザリー・ボード、嵯峨美術大学客員教授などを兼務。

文=川村雄介

この記事は 「Forbes JAPAN No.090 2022年2月号(2021/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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