上がらない日本人の年収。なぜ給与は下がるのか?

教え子のα君が300万円をゲットしてから5年たつ。子どもが3人できたら300万円を出してあげる、という会社の子育て支援制度にかない、そのころ3人目の子どもが生まれたのである。α君は猛然と働いた。素晴らしい会社で仕事ができる、という励みはすごかった。

やはり教え子のβさんの会社は、支援金こそないが、企業内保育所など会社のサポート体制が充実しており、遠距離通勤をものともせずに頑張ってきた。

ところが、最近、α君もβさんもどことなく疲れた表情で一頃の精気がない。「僕は中学生の娘と小学生の息子、幼稚園年長の娘の3人。教育費、住宅ローン、なにより5人家族の日常のかかりで300万円なんかとうの昔にありません」。「私のところは一人っ子ですが、中学受験をさせました。塾、塾です。親の介護も加わって出費ばかり増えるけど、収入は思わしくない。最近は、仕事への意欲というより、やらされ感というのか、気力がわかないんです」。

α君もβさんも、元来、積極果敢に仕事に取り組むタイプだったのに、最近は仕事のリスクをあえて避けているきらいがある。中間管理職の彼らがこれでは、会社全体にマイナスだ。私の世代が彼らの年代のころは、子育て支援の300万円は無論なかった。育児・教育への企業の理解もあまりなかった。でも、仕事仲間はα君やβさんよりも、はるかに「やる気」に満ちていたと思う。

そう言うと、二人は異口同音に応じた。「先生の時代は年収が上がっていたでしょう。私たち、全然上がらないんです。この先、グンと上がる見込みもありませんし」。

ええっ?と、データを洗って驚いた。大和総研の分析によると、雇用者一人当たり報酬は、2000年を100とした場合、昨今では94である。20年間でサラリーマンの給料は6%下がっているのだ。個人ごとには、昇格・昇給があるから、なべて6%下がっているわけではないが、全体として下がっていることは厳然たる事実。これでは、仕事へのモチベーションが下がり、万事リスク回避的になるのも無理はない。

しかし、ちょっと待て、である。この間の企業収益教も下がってきたのか。違う。年によって若干のブレがあるが、2015年以降の企業所得は、2000年より4割から6割もアップ、20兆〜30兆円も増加している。

こんなに企業所得が増加しているのに、社員一人ひとりの給料が減少したのはなぜか。何が増えたのか。可能性は二つある。
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文=川村雄介

この記事は 「Forbes JAPAN No.090 2022年2月号(2021/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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