航空優勢をどちらが握るか 元陸将補が占うウクライナの戦況

2022年3月6日、ウクライナのイルピンでパトロール中のウクライナ軍兵士たち(Photo Laurent Van der Stockt pour Le Monde/Getty Images)


二見氏は、こうしたロシアの行動は、サイバー攻撃のほか、補給の行き詰まりも原因になっている可能性があると解説する。「(ウクライナ国境に集結していた)19万のロシア軍兵力のほとんどが、1週間以上も戦闘しているのは、なかなか大変だ。特に兵站線の維持が難しい」という。二見氏によれば、1個師団(1万人から1万5千人)に必要な1日あたりの補給量は2千トン以上にのぼる。補給用車両の積載量は3トン程度で、計700両が活動することになる。二見氏は「兵站線が200キロ以上に達すると、補給路の確保が重要になる。道路の状況を考えるとロシアも楽な戦いではないだろう。当初は、キエフとハリコフを早期に陥落させ、そこかを拠点に展開する計画だったのではないか。今のままでは、北部への侵攻は、ベラルーシ経由で補給しなければならない」と語る。

ロシア軍は、こうした誤算を受け、戦術の変更を強いられている。市街地への攻撃が激しくなっているが、二見氏は「砲撃と空爆を繰り返して破壊しながら、戦力を押し進めていく作戦に切り換えようとしている」と語る。

ただ、苦境に立つロシア軍がなお優位に立っているのは、航空優勢を維持しているからだとみられる。二見氏はキエフ近郊20数キロの地点に迫った長さ60キロ以上に達するロシア軍の車列をその例に挙げる。「長い車列が続き、動けない状態に陥っている状態でも、全面的な破壊を免れているのは、航空優勢を保っている証拠になる。また、キエフ正面での戦闘が進展しないため、補給車両が前進できない状態でもある」という。

二見氏は「おそらくウクライナ軍はキエフなどの地下に潜って分散して戦うだろう。通信ネットワークもしっかりしているから、組織的な戦闘もできるだろう。そのためには、弾薬・燃料などの補給が重要になる。ウクライナにとって今後の戦闘の変換点は航空優勢の回復だ。戦況を変える鍵になる」と語る。ロシア軍は初期の攻撃で、ウクライナ軍の防空システムを破壊した。「肉眼で豆粒大の戦闘爆撃機を確認した時には、すでに攻撃を受けている可能性が高いから、ロシア軍の航空機を見つけるためのレーダーが必要だ。索敵レーダーと連携した携帯式地対空ミサイルの運用が可能になれば、ロシア軍の航空機の運用が制限される」という。「しかし、ロシアも戦況を変える動きは許さないだろう。航空優勢に影響を与える行動、例えば、西側諸国がレーダーや情報を供与する動きを示せば、プーチン大統領は核の使用をちらつかせるだろう」

今後は、ロシア軍とウクライナ軍の間で、航空優勢の奪い合いが一つの焦点になりそうだ。二見氏は「今は、両軍が東部や北部で様々な戦いを仕掛け合い、お互いの戦力を削り合っている状態だろう。戦況が膠着してる状態だが、分水嶺を超えると、どちらかが一気に崩壊する。ウクライナ軍が持ちこたえている間に、ロシア軍による空爆が減ったり、撃墜されるロシア軍の航空機が増加したりする状況が生まれれば、戦況が変わる兆候になる」と語った。

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文=牧野愛博

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