プーチンをサイコパスと診断できる根拠と陰性感情

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見聞の狭い私にはこれ以上の分析はできないが、ほぼ是認したうえで補充したいのは、プーチンが国益主義者という時の「国益」だ。

メディアが書き立てる蓄財や女性関係。いわく、公表年収が1000万ルーブル(約1200万円)なのに実態は20兆円。いわく、夫人に暴力をふるって浮気を繰り返し、離婚。隠し子──。

「衝動性をコントロールしやすい」タイプのサイコパス


ここで、結論の「サイコパス」の説明に入ろう。

サイコパスは精神医学的な診断名ではない。近い精神疾患に「反社会性パーソナリティ障害」があるが、大国の政治指導者がなぜ「反社会」なのだと、いぶかる向きもあるだろう。

パーソナリティ障害(PD)とは、その人の属する文化から期待されるより著しく偏った考えや行動が青年期から続き、臨床的な苦痛を生じ続けるもの。その中で反社会性PDは虚偽性や衝動性、攻撃性、無責任などがあり、良心の呵責のないタイプを指す。しかも、少年時の素行不良歴が定義に含まれる。

私見では、プーチン大統領は反社会性PDの基準を満たすとまでは言えない。だが、より幅広い概念のサイコパス、その中でも衝動性をコントロールしやすいタイプには当てはまると考えた。

以下、分かり易く解説した中野信子氏の著書「サイコパス」(文春新書)に準拠して述べる。

プーチンは「クラッシャー上司」?


サイコパスはもともと連続殺人犯などの反社会的人格を説明するために開発された診断上の概念。近年の脳科学の進歩で、他者への共感性や「痛み」を認識する脳の部分の働きが一般人と大きく異なることが判明した。発現の割合はおよそ100人に1人。

しかも、サイコパスは残虐な殺人犯ばかりでなく、大企業のCEOや弁護士、ジャーナリスト、外科医と言った職業にも多いとされる。著者によると、織田信長や毛沢東、ピョートル大帝など歴史上の人物にも当てはまる。では、プーチン大統領は?

冒頭で述べたように、非行少年だったプーチン氏が、KGBという「サイコパスにはうってつけの仕事」を渇望し、入職した時点で可能性がある。その後のエピソードを振り返る。

1989年12月5日深夜、ベルリンの壁崩壊から1カ月後。南に200kmのドレスデンにも民主化の波が押し寄せた。KGB支部を占拠しようとしたデモ隊に向かって、小柄な男がひとり、ロシア語なまりだが流暢なドイツ語でこう告げた。

「ここに侵入することは断念しろ。武装した同僚に、ここを守るよう指示した。もう一度言う、立ち去れ」

当時37歳のプーチン氏の警告に群衆は恐怖を感じ、引き揚げた。(朝日新聞2015年3月30日付)

同書によると、サイコパスは不安を感じにくい。その理由は、心拍数が低く、瞬きが少ない、自律神経機能反応が小さいなどの身体的特徴から、危険な状況でもパニックを引き起こさないようになるのだという。周囲は逆にサイコパスの表情を読み取りにくい。

ベルリンの壁崩壊という危機的状況にあっても冷徹に任務をこなす姿は、佐藤氏の指摘するように工作担当者そのものだ。
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文=小出将則

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