――ビジネスプロセスマネジメントのプロである執行役員の山本さん、そしてDX事業の責任者として企業と向き合い続けてきた取締役の亀本さん、それぞれにDXをどう見ているのかという点からお話をお伺いできますか。
山本政樹(以下山本):経営は、デジタルをどう扱うかというより、デジタル化が進んだ現代社会、そこから導かれる経営の姿を追求することが大切だと考えます。DXという言葉の発祥とされるストルターマン教授の定義では「DXとはデジタル技術が人々の生活のあらゆる側面に変化をもたらすこと」とされているように、「デジタル」という言葉よりも、目指す経営に向けた“X”すなわちトランスフォーメーションをどう考えるかに着目すべきです。
亀本 悠(以下亀本):DXとは企業価値を高めるための変革です。これからの時代の企業経営において、自社の価値を継続的に高めるためデジタル活用は欠かせないものではありますが、デジタル化による狙いを短期的な売り上げや利益だけにおいていては、継続的に自社の価値を高めていくことは難しいと言わざるをえません。まず考えるべきは、企業のインセンティブ構造が企業価値を高める方向に働いているのか、その視点こそが重要です。
DX時代に求められる企業価値の向上
ブランドの力をいかに高めるか
――亀本さんが言う「継続的な企業価値の向上」とはどのようなことを指しているのかご説明いただけますか?
亀本:企業価値を高めるとは、ブランドを高めることだと思っています。ブランドとはお客様との関係性から生まれるものですが、デジタル時代のブランド価値というのはお客様を含むさまざまなステークホルダーとの共創であり、常に変化していくものです。この前提に立ち、一過性の売り上げや利益だけでなく企業活動の結果として培った幅広いステークホルダーとの相互信頼の深さこそ企業の本当の価値であり資産です。
――亀本さんがおっしゃる「価値」とはどのようにして測られるのでしょうか。
亀本:ここでいう価値は従来の企業の評価指標だけでは測れないものです。アウトプットだけでなくプロセスを評価する必要があるからです。事業計画をつくる場合を例にしてお話しすると、いつまでにいくら稼ぐか、ということ以上に、市場や顧客との関係性をどう継続的に育て拡大するか、関係性をつなぐ相互価値とは何か、そこに目を向けて事業の目標や管理指標を考えていく必要があります。
山本:確かに、ビジネスのスタートラインはいつでも「お客様の期待・課題は何か」です。そしていまの時代の経営では、単純に目の前のお客様だけではなく社会全体や地球環境の調和といった俯瞰的な視点が必要です。
アナログ時代からデジタル時代へ
事業管理のあり方を変えていく
亀本:関係性を起点にした経営では、事業管理の考え方も変わります。例えば、デジタル時代のコンテンツサービスの考え方はかつてのアナログの時代とはまったく違うからです。ゲームの場合、従来であればよいコンテンツを作り市場に出し、発売開始後にいかに稼ぎ切るかが大切でした。
――評価指標は販売量であり、売り上げや利益ですね。
亀本:そうです。ところが現在のゲーム業界では多少機能的に不十分でも、まず市場に出すということを行います。そしてお客様の声やプレイデータをもとにコンテンツをどんどんアップデートしていきます。あげた声が反映されたお客様は自分たちの声が届きサービスに反映されることを、信頼という価値として感じ取りゲームをプレイし続けます。お客様の動向から、「関係性の構築」ができているか、さらに新しい関係を築けているかということが評価の指標になります。
――売り上げや利益では見えにくいですね。
亀本:ARR(年次繰り越し収益)やチャーンレート(解約率)といった顧客動向を示す指標が重要度を増してきます。少なくともP/L指標よりは提供価値の尺度になりやすいでしょう。このように事業を測る尺度のアップデートができないのであれば、これからの経営における企業価値の向上は難しい。
山本:指標が変わることにより、データのリアルタイム性も従来より大切になってきます。売り上げや利益といった財務データはもちろん重要な経営指標ではありますが、遅行指標でもあります。いまこの瞬間のサイトの訪問数、発表したばかりの商品へのネットでの反響、ビジネスプロセスからあがるマイニングデータといったように、リアルタイムのデータを最大限活用しながら経営判断のサイクルを高速化させる必要があります。
――おふたりが言うDXは、主に業務削減といった効率化だけではない価値を生むものであるように感じます。
山本:そうです。私たちが支援する目的はただの業務のデジタル化ではありません。目指すものはその先にある企業価値の向上です。DX時代の経営の根幹はデジタル技術が直接的にもたらすもの以上に、デジタル技術によって大きく変わる社会構造のなかでの、人と組織のあり方だと考えています。冒頭にお答えしたように、DXの“D”よりも“X”、トランスフォーメーションこそがより重要です。
LTSのDX支援のあり方、考え方
必要なのは個人の変革
――組織の変革は大きなパワーを必要とするものでもあります。トップダウンでDXを唱えながらも実現に苦慮しているというケースはしばしば耳にします。
山本:企業変革を実現する力の源泉がどこであるのか、それを経営層は認識する必要があります。それは、組織に所属するすべての人の変革への意志がまず必要だからです。もちろんそれを可能にする能力も必要ではありますが。そこで我々LTSが重視していることは何かという話になりますが、私たちの支援の目的がただのデジタル化ではなく、その先にある企業価値の向上だという点からも、その答えはシンプルです。すなわち、お客様の組織の変革を進めることはもちろんですが、それ以上にお客様の組織に所属するすべての個人のなかに、変革への意志と能力を育てることです。
亀本:LTSはこれまでさまざまなDX案件を支援してきました。すると多くの企業がDXに期待をしながらも効果が得られずに苦慮し、嘆いている。やがて「困っている人を助けたい」という思いがどんどん大きくなり、いまではLTSとして何が提供できるのか考える際の原点になっています。
――なぜ、効果を得られずにいる多くの企業があるのでしょうか。
亀本:DXは目的ではなく手段であるということをご理解いただけていないからです。単なるデジタル技術の活用で得られる効果は、ないとは言いませんが一時的なものであり継続的に企業を大きくするものではありません。単なるデジタル技術の活用という枠を超えて、本質的に経営のあるべき姿を見つめ、企業価値を高めるビジョンをもつ必要があります。LTSではそれをお客様とともに考えることに重きをおいています。そしてDXとはそのビジョンをかなえるための手段なのです。
LTS
https://lt-s.jp/
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亀本 悠(かめもと・ゆう)◎慶応義塾大学卒業後、戦略コンサルティング会社入社。2011年にLTSに移籍。デジタル活用サービスを展開する事業部門の責任者として、サービス開発および事業規模拡大をけん引。19年3月に取締役に就任。
山本政樹(やまもと・まさき)◎立命館大学卒業後、1999年よりアクセンチュアにて業務コンサルティングに従事。フリーランスコンサルタントを経て2006年LTS入社。ビジネスプロセス、プロセス変革についての著書多数。