青木:僕がずっと「個人」を貫いて長く格闘技を続けていくうち、若い時でなく歳を重ねてからのファンがついてくれました。僕が若い時、知らず知らずにメッセージや勇気を僕から受け取ったファンが年月を経て、「あの時、自分が青木から貰った希望の光を、今度は青木に返そうか」みたいに思ってくれているみたいです。
だから今は、格闘家人生の貯金で生きている感じがしていて。アスリートって、良くも悪くも昔の財産をポジティブに使って生きていくんだな、と実感しています。
10年かかって手に入れたパフォーマンスの表現者
澤:格闘家になられて最初のうちは、がむしゃらにやっていました?
青木:そうですね。最初のうちは考える余裕が無かった。メインイベントでも実力不足な時もあったし。名実ともに格闘家として認められるまでに10年かかりましたね。2006年8月26日にデビューして2015年12月29日が、青木VS桜庭の試合だったんです。この試合は、自分自身が納得いく形でパフォーマンスをする事が出来た。勝敗うんぬんでなく、自分が思い描く「世界観」を作り上げるまでに10年かかったわけです。
澤:会社員で「目の前の業務をとりあえずこなす」という人がいますが、青木さんは「世界観を作る」とおっしゃった。そこがプロですね。格闘技は、観客がいて興行として成立させないといけない。今回の対談は、ビジネスパーソンに向けて情報発信する目的があるのですが、どんな仕事も「世界観を描いて仕事をする」のが重要だと思います。ところで、青木さんが以前、何かの取材で「格闘技選手は、何かしらの特殊性を持っている」とおっしゃっておられたのが印象的ですが。
青木:格闘技をする人って、社会から脱落した人がセーフティネット的にひっかかる、みたいに見えていた時代もありましたよね。語弊があるかも知れないけれど、格闘技をやる人って、他では生きていけない人なんです。格闘技の中で、自分の「居場所」を見つける、というか。だから僕は、社会に於ける格闘技の着地点をいつも考えています。
自分の「居場所」をしっかり見据えて安売りしないフィロソフィー
澤:「居場所」って重要なキーワードだと思います。「居場所」を間違えている人って、実は沢山いるんじゃないかなと思っていて。一般的には、学校を卒業して、その後に就職したら、そこが「居場所」だよって決められたレールが存在しますが、僕にとっては、それが最高の地獄であった。
幸いな事に学校は、「卒業」制度があるから、卒業すれば、学校からは逃げられる。仕事は、嫌なら辞めればいい。つまり、オプション・フリーであるわけです。そういう意味では、世の中には、間違った「居場所」にいたり、受け入れられない人も大勢いると思います。
青木:仕事を楽しんでやったところで、搾取されてしまったり、という例もありますよね。「好きな事を仕事にしているんだから、ギャランティは安くていいんだよね」と思われてしまう可能性もある。だから、そのあたりの塩梅を上手くバランス取らないといけない。
澤:そのあたり、青木さんいかがですか? 「自分を決して安売りしないぞ」みたいな心持ちとかありますか?
青木:正直言って、全く無いです(笑)。お金を稼ごうと思うなら、そもそも格闘技はやっていない。お金を稼ごうとこだわった時期もありますが、今は「どれだけ自分に価値があるか」と目視している段階です。