ラスベガスの運命を握るのは
そんなビッシイにとって、残る相手はウィンとMGMだ。
ウィン社はつい最近資産を売却しないことを表明したが、長年スティーブ・スィンに仕えてきたCEOが退任することになったことを受け、この表明は揺らぐとみられている。
そして、実はビッシイとMGMとの交渉が着々と進んでいる。
MGMは現在ラスベガスで最もたくさんのホテルを抱えるトッププレーヤーだが、2018年にMGMの資産管理会社であるMGMグロス・プロパティーズが、ビッシイを6000億円で買収しようと持ちかけたことがあった。
ビッシイはこの買収提案を却下し、見事上場を実現したわけだが、その後、MGMグロス・プロパティーズを買収するという逆提案がされ、交渉が進行している。
この提案は約2兆円の買収計画となるが、これが今年の前半までに完遂すると見込まれていて、その暁にはビッシイがラスベガスの80万坪以上の土地を支配することになる。
ビッシイのCEOには不動産投資の専門家が就いているが、COOにはカジノ業界で25年以上の経験を持ち、かつてシーザーズでCEOをやっていたジョン・ペインという人物が従事している。
こうして戦後、マフィアの経営から脱して、大きく発展していったラスベガスは、表舞台のエンターテインメントとしての集客とは別に、不動産投資を中身とした金融商品開発(いわゆるREIT)で競り勝った「シーザーズ帝国」の独占的大支配へという状況になりそうだ。
現地のリビュージャーナル紙のインタビューに答えたビッシイのCEOエドワード・ピトニアックは、今後もさらにラスベガスのホテルを買うという意欲を見せている。そして、同社はラスベガスから引っ越しをして、いまではニューヨークに拠点を置いている。
ビッシイのような不動産管理会社が「ラスベガスの王様」になるのは、当の株主にとっては結構なことだろう。しかし、駐車場もコロナ禍の前のように有料体制に戻り、部屋や食事など、あらゆる客単価を上げてくるホテル経営にあって、市民が親しんできたラスベガスらしさがますます遠のいていくように思える。
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今後、ラスベガスの運命は、ウォールストリートの財務マンたちに握られていくことは間違いない。ビッシイはいまでこそシーザーズと一体に見えるが、金融商品のより高いパフォーマンスのためには、いままでカジノ業界にほぼ参入してこなかったマリオットなどの巨大ホテルチェーンとも組むだろうし、外国資本への売却も視野に入れるだろう。
これまでリゾート都市としてラスベガスをメジャーにしてきた、スティーブ・ウィンやシェルダン・アデルセンの時代は終わったのだ。さまざまな意味で、カリスマが去るのは寂しい。
連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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