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2022.03.09

中堅幹部は石田三成に学べ。現代に通じる日本的リーダーシップ論

日本的リーダー像を体現していた石田三成/photo 石田三成像(東京大学史料編纂所所蔵模写)

前回は、Google、Amazon、Meta(旧Facebook)、Apple、Microsoftの「GAFAM」に代表されるグローバルジャイアントに対抗すべく、日本の歴史、文化の特異性、それらに根ざした日本人の特徴について考察を重ね、中でも「多様性の追求」「身近なヒーローの創造」「低コストと競争力の両立」こそが、日本企業にしかできない〝勝ち筋〟だと論じました。

今回はこれを踏まえ、日本企業を勝ち筋に導くための日本型リーダーシップの要諦に踏み込んでいきます。

強く永続する共感重視型リーダー


歴史を振り返ると、日本には時代を創った2つのタイプのリーダーシップがあることに気付かされます。

1つはあるべき姿を明確に描き、その実現に向けて自ら改革を主導するビジョン先行・トップダウン型のリーダーシップです。仏教を輸入し天皇を中心とした中央集権体制を確立した聖徳太子や、鎌倉幕府から貴族の手に権力を取り戻そうとした後醍醐天皇、強力な武力と革新的な統治を背景に天下統一まであと一歩のところまで迫った織田信長がこのタイプの筆頭です。

もう1つは、直属の配下は元より広範囲にわたる人々の心をつかみ、改革の波を広げる共感重視・ミドルアップ型のリーダーシップです。鎌倉幕府を開いた源頼朝や戦国時代を終わらせた徳川家康がこのタイプに当てはまります。

前者は、歴史に大きなインパクトを残し新しい時代をつくりますが永続が難しく、聖徳太子はその子供の代で滅んでしまい一族は権力の中枢から外れました。織田信長にいたっては、天下統一を目前にして倒されてしまいます。他方、共感重視型のリーダーは、勃興までに時間を要するものの、強く永続する基盤を構築することが多いといえます。

両者の本質的な違いは何でしょうか。

筆者は後者のリーダーが持っていたストーリーテリング(物語創作)力にあると考えます。物語には人を引きつけ、動かす力があります。シンデレラは世界に450ほど類似の物語があり、このことは、時代や洋の東西を問わず人がシンデレラの物語に共感を覚えることを示しています。また、物語の威力を現代のエンターテイメントに活かしているのがジョージ・ルーカスです。彼はジョセフ・キャンベルの神話における英雄伝説の構造を大学で学びました。世界中で読まれている神話の英雄物語を再現すれば、必ずヒットする映画が創れる。そう確信してハリウッドに進出しました。

日本で活躍した共感重視型のリーダーたちも、日本人の嗜好を熟知して人々を引き付ける物語を持っていました。彼らが持つストーリーテリングの要諦を、これまで述べてきた「アワセとソロイ(合わせと揃い)」「オモカゲとウツロイ(面影と移ろい)」「シゼンとキンベン(自然と勤勉)」の3つの視点から抽出したいと思います。

ストーリーテリングの視点1

「アワセとソロイ(合わせと揃い)」

1つ目は、日本人が無意識に抵抗してしまう淘汰や選択を排し、対立するものを並列、共存させることで多くの人に受け入れられる土壌を形成する点です。源頼朝は、平家討伐後に圧倒的な武力を保有しながらも、中国の覇王のように天皇になりませんでした。律令制度の二官八省は温存し征夷大将軍を新設することで、律令制の外側に武家政治を確立しました。

公家やこれまでの政治体制を保存することで、人民に安心感を与えただけではありません。公家の「あはれ」から武家の「あっぱれ」が生まれ過去を活かして組み合わせ、新しいものを生んでいく仕組みが人々の共感を得たと言われています。
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文=中村健太郎(アクセンチュア)

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